芸術集団れんこんきすたの27:『木立によせて』~第二部『白樺のいたむ瞳』編~ 10分の休憩を挟み、第二部『白樺のいたむ瞳』の幕が上がる。 葉を落とし、紅く染まった寂しい木の下に、一脚の木のベンチが置かれた舞台。 ジュイシェンが、戦場に散ってから時は流れ、戦争が終結した後のキルギスの片隅の町。 ジュイシェンの最後の手紙に書かれていた『何の為に勉強したのか。後悔している。』という言葉が、勉強する事を教えた自分を責めた言葉だと思い込み、自分が学ぶを教えた為にジュイシェンは志願して戦争に行ったのだと自らを責め続け、人に教える事に怯え、自信を失くし、窶れ、目に力なく、抜け殻のようになったオリガ先生(中川朝子さん)と両親を亡くし、嫌々ながらも引き取り、育ててくれた叔父夫婦に、羊1頭と引き換えに父親ほども年の離れた金持ち...2017.10.26 05:13観劇記
芸術集団れんこんきすたvol.27:『木立によせて』~第一部『ポプラの淡き翼』~ 『鬼啖』『かつて、女神だった私へ』につづく、芸術集団れんこんきすたの二人芝居の集大成でもある『木立によせて』の幕が上がると、目の前に一本のポプラの木の下に、一脚のベンチが置かれた舞台が現れる。 『木立によせて』は、キルギスの作家チンギス・アイトマートフの『最初の教師』を下敷にして書かれた第一部『ポプラの淡き翼』と第二部『白樺のいたむ瞳』の二部構成の芝居。 『最初の教師』を下敷に書かれてはいるが、キルギスの小さな村という設定とジュイシェンとアルティナイという名前、教えるという事、学ぶという事についての大切さと意味を描くという点はチンギス・アイトマートフの『最初の教師』の要素が入っている以外は、奥村千里さん、そして芸術集団れんこんきす...2017.10.25 06:16観劇記
芸術集団れんこんきすたvol.27:『木立によせて』~全体編②~ 昨日、『木立によせて』を観た時、『最後の授業』がふと頭を過ぎったと書いたが、『最後の授業』どんな小説かについても触れておく。 『最後の授業』は、アルフォンス・ドーデの小説。 フランス領アルザス地方に住む学校嫌いのフランツは、その日も学校に遅刻し、担任のアメル先生に叱られると思ったが、先生は怒りもせず寧ろ穏やかに席に着くようにフランツに促す。 いつもと違う教室の雰囲気にふと振り向くと、後ろには元村長や村の老人たちが正装をして集まっており、アメル先生は教室の皆に向かってこう話し始める。 「私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。普仏戦争でフランスが負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないこ...2017.10.24 06:52観劇記
芸術集団れんこんきすたvol.27:『木立によせて』~全体編①~ 先週の土曜日、降り続く雨を縫って、新中野のワニズホールに芸術集団れんこんきすたの『木立によせて』を観て参りました。 芸術集団れんこんきすた主宰の中川朝子さんからも、出演される木村美佐さんからもこの舞台への思いなどを聞いて、きっとすごい舞台になると思っていたけれど、私の予想など遥かに超える本物の素晴らしい舞台でした。 今回、作・演出の奥村千里さんの緊急手術や入院もあり、奥村さんご自身のみならず、出演される中川朝子さん、木村美佐さん、石渡弘徳さんも 『木立によせて』を書き上げ、上演できるのか、不安に思った事も焦りを感じた事もあっただろうし、奥村さん退院後の舞台稽古も想像を絶する程大変だったに違いない。 そんな、予期せぬ事態をも微塵も感...2017.10.23 12:30観劇記
スタジオアプローズ・プロデュース第2弾:『燕のいる駅』② 今回、一つの話をAチーム、Bチームの2組のチームとキャストで上演したのだが、Aチームには、芸術集団れんこんきすたの常連の如く出演されている濱野和貴さん、Bチームには、こちらも芸術集団れんこんきすたの舞台には欠かせない小松崎めぐみさんが出演されていたので、両チーム観たのですが、両方観て良かった。 同じ話しなのに、各々のチームの醸し出すものや色が全然違い、Aチームでは、漫才コンビが女性コンビの設定だったのが、Bチームでは男性コンビになっていたり、それぞれの役が、役者によって、動きや仕草、それぞれの描き出す人物が基本的な性格は抑えつつ、表情や表現、動きが微妙に違い、両チームでそれぞれ駅員のローレンコ三郎、漫才コンビヤマトヤマシロ、戸村さ...2017.10.14 11:01観劇記
スタジオアプローズ・プロデュース第2弾:『燕のいる駅』① 先週の土曜日、雨の切れ間を突いて、お昼から夜まで、2ヶ月ぶりに両国のスタジオアプローズに、濱野和貴さんと小松崎めぐみさんが出演されていた『燕のいる駅』を観に行って参りました。 『燕のいる駅』は、1つの話をAチームとBチームの2組のキャストで演じる舞台。 Aチームには濱野和貴さん、Bチームには小松崎めぐみさんが出演されていたので、両方のチームを昼夜連続で観劇。 更にこの日は、Aチームが、一足先にこの回が千穐楽を迎えたので、両チームを観られる最後の日でもあった。 『燕のいる駅』は、「日本村四番」 という古き善き日本の再現及び保存を目的とした人工島に造られた「四番」町と本土とを結ぶ唯一の交通手段の駅に取り残されてしまった男女7人、外の世...2017.10.13 09:27観劇記
オルタナティブシアター杮落とし公演:『ALATA~アラタ~』 急に冷え込んだ晩秋の様な先週の金曜日、友人と有楽町のオルタナティブシアターの杮落とし公演『ALATA~アラタ~』を観に行って来ました。 調べた所によると、オルタナティブシアターは、スタジオアルタが運営する劇場で、7月7日に東京・有楽町マリオン内にオープンした言語を用いず、言語以外の表情や動きなどの要素や表現でメッセージのやり取りをしコミュニケーションを取る「ノンバーバル」を特徴とした、言葉にとらわれないパフォーミングアーツ公演を上演していくのだという。 その杮落とし公演が、この『ALATA~アラタ~』で、7月7日~11月末まで上演している。 『ALATA~アラタ~』は、どんな舞台なのか。先ずは、あらすじをざっくりと紹介する。【あら...2017.10.12 06:44観劇記
あやめ十八番:『三英花 煙夕空』~本編~ 『三英花 煙夕空』のこのフライヤーを観た時に、すぐに頭を過ぎったのは、上村松園の『焔(ほのお)』という絵だった。上村松園:【焔】2017.10.11 07:08観劇記
あやめ十八番:『三英花 煙夕空』~序章・↑あらすじ~ 秋の日は釣瓶落とし、とっぷり暮れた鶯谷の駅に降り立ち、寛永橋を旧平櫛田中邸へとあやめ十八番『三英花 煙夕空』を観る為に急いだ。 夜の中、ぼんやりと浮かぶ旧平櫛田中邸の灯り、靴を脱ぎ、玄関の三和土を上り、奥へと進むと、小さな床張りのアトリエがあり、そこが『三英花 煙夕空』が紡がれる場所だった。 夜の闇に塗り込められたアトリエに、舞台はなく、コの字型に1列30席程の客席が設(しつ)え役者は観客が取り囲む真ん中で芝居をする。 一段高い舞台の上での芝居ではなく、感覚としては観客との距離零の芝居である。舞台のない舞台。舞台装置も美術も無い、この空間こそが物語を紡ぐ舞台であり、舞台装置、舞台美術その物なのである。それ故に、始まると難なく『三英...2017.10.10 05:33観劇記
あやめ十八番:『三英花 煙夕空』~序・『旧平櫛田中邸アトリエ』~ 先週末観た、あやめ十八番『三英花 煙夕空』の観劇ブログを書くにあたり、今回公演が行われた場所が、通常の劇場やライブスペース、シアターカフェ等とは違う場所だったので、先ずは舞台が上演された『旧平櫛田中邸アトリエ』について説明した方が、より舞台の雰囲気が伝わると思うので、まずは『旧平櫛田中邸アトリエ』のご紹介。 あやめ十八番『三英花 煙夕空』が上演されたのは、上野桜木にある『旧平櫛田中邸アトリエ』。 観に行ったのが夜の回だったので、着いた時にはアトリエは、とっぷり夜の色に沈んでいて玄関から零れる灯でかろうじて玄関先だけが浮んでいると言った感じで、外観や家の中を撮る事もままならなかったので、当日頂いた『旧平櫛田中邸アトリエ』のパンフレッ...2017.10.05 04:10観劇記
Photo小説:『零れゆく記憶の中で』 セピア色の写真のように、焼けて、色失せ、古びてゆく。 時も、眺めも止まった世界。 感情も、感慨も、何もなく。 薄れて行く愛の記憶。 もう、私が誰かすらも、何かすらも曖昧で、ただひとつ、ぼんやりと紗の掛かった記憶の向こうに陽炎のようなあなたの面影だけは、覚えている。 悲しみが烈し過ぎて、櫛の歯が欠けるように、私の中から記憶が抜け落ち、指の隙間から零れる砂のように、思い出も感情も零れ落ちてゆく。 ただひとり、あなたの名前とあなたの声と私を抱きしめたあなたの体温と私の好きなあなたの匂いとやさしいあなたの面影だけは、覚えている。 私にはあなたしかなく、あなたしか要らない。あなたが私の中に在ればいい。 私の心と軆が萎えて、命が枯れて、あなた...2017.10.04 13:43photo小説