オルタナティブシアター杮落とし公演:『ALATA~アラタ~』

 急に冷え込んだ晩秋の様な先週の金曜日、友人と有楽町のオルタナティブシアターの杮落とし公演『ALATA~アラタ~』を観に行って来ました。

 調べた所によると、オルタナティブシアターは、スタジオアルタが運営する劇場で、7月7日に東京・有楽町マリオン内にオープンした言語を用いず、言語以外の表情や動きなどの要素や表現でメッセージのやり取りをしコミュニケーションを取る「ノンバーバル」を特徴とした、言葉にとらわれないパフォーミングアーツ公演を上演していくのだという。

 その杮落とし公演が、この『ALATA~アラタ~』で、7月7日~11月末まで上演している。

 『ALATA~アラタ~』は、どんな舞台なのか。先ずは、あらすじをざっくりと紹介する。

【あらすじ】

 2020年の巨大都市トーキョーに戦国時代からタイプスリップした武将”アラタ”と、現代を生きる女性「こころ」が夜の銀座で出会い、現代東京の常識を全く知らない「アラタ」と、古臭いことを嫌う「こころ」の東京珍道中が始まる所からこの物語は始まる。

 妖術使いの怨霊・玉野尾から千代姫を守るために悪霊と戦い追い詰められ「アラタ」は、姫の従者で祈祷師の白百の呪文によって500年後の未来のこの時代に逃されたのだが、古代から追いかけてきた妖術使いの玉野尾が二人の行く手を阻む。

 突如降りかかってきた出来事が理解できない“こころ”は、「アラタ」と共に現れた「鼓」を見つけ「鼓」を打つが、「鼓」を打つと“こころ”は急に目まいを覚え、倒れていた「アラタ」が急に息を吹き返したのを見て、“こころ”はこの「鼓」に何か不思議な力が宿っているのを感じる。

 「アラタ」を元の戦国時代へと送り戻す為、“こころ”は「鼓」を手に「アラタ」が示す手掛かりを探し東京中を二人で奔走するも、現代文明を全く理解できない「アラタ」は、行く先々で大騒ぎを起こし、最後には大勢の警官隊に囲まれてしまう。

 なんとか危機一髪を逃がれた二人だが、安堵したのもつかの間、古の時代からさらなる魔の手が忍び寄る。

 果たして“こころ”は、「アラタ」を無事に元の時代へと送り返せるのか。

 日本の古き良き時代の侍「アラタ」の姿に、現代の東京の女性“こころ”は何を感じるのかを描いたタイムスリップチャンバラパフォーマンスショー。

 これだけの内容のものを、殆ど台詞を発さず、1時間10分踊りと殺陣、動きと表情だけで表現するノンバーバルで観せるのが凄い!
 台詞と言っても、名前を一言呼ぶのが数回あるだけで、この物語の全てを殺陣と踊りと動き、役者の表情の動きのみで演じて観せ、台詞無くして観客にしっかりと伝え切る事の凄さは言葉にし尽くせない程の熱量と演じる役者、ダンサー全ての演技者として、表現者としての質が高くなければ成し得ない事だと思う。

 以前にもノンバーバルと称するものは何度か観たけれど、『ALATA~アラタ~』の比ではなく、『ALATA~アラタ~』のこの質の良さと高さまでいっていないものをノンバーバルなんて、言ってはいけないと思った。
 踊りも殺陣も芝居もプロフェッショナルの人達がやってこそノンバーバルの芝居と言えるのだと『ALATA~アラタ~』を観て思った。

 現代にタイムスリップしたアラタ(塚田知紀さん)の戸惑い、こころと心が通じ合った瞬間、戦国時代を生きる侍としての矜恃と姫を守る為に戦う侍としての生き方、アラタに会うまで、毎日繰り返される同じ日常に感じる閉塞感と孤独に疲れ切っていたこころ(Elinaさん)が、アラタ出会い行動を共にするうちに、閉ざされていた心が開き始め、当たり前であった変わらない毎日が当たり前ではなく、愛しいものだと気づいてゆく変化、捕えられながらも妖術使いの怨霊・玉野尾と戦う、楚々して儚く見えながら、しなやかでなよやかな中に秘めた凛とした強さを繊細な千代姫(吉田美佳子さん)、妖術使いの怨霊・玉野尾(Kanaさん)の凄みのある悪は、単なる悪ではなく、心に抱える孤独や他者から決めつけられ向けられた偏見が凝り固まり悪になるに至る原因となったのではないかと思わせる、黒い悲しみのようなものを感じた。
 これだけの事を、言葉を殆ど用いず、伝え切り、観せる凄さ。

 天井や舞台上に写し出されるプロジェクトマッピング、音、照明が皮膚や軆全体を通して、観客もまた、『ALATA~アラタ~』の世界に生きている感覚にさせる臨場感と、ワイヤーフライングや玉野尾のエアリアル(空中ヨガ)の迫力、客席をふわーっと前から後ろに覆い流れる真紅の布が頭上を掠めた時は、玉野尾の烈火の如く燃え、全てを焼き尽くす情念に呑み込まれたような実感を膚に感じるようだった。

 外国人の観客も数人いたが、動きと芝居だけで伝わっていて楽しんでいたし、大人から子供まで、言葉の枠を越えて楽しむことの出来るこんな凄くて、面白いエンターテインメントな舞台を久しぶりに観た。

 台詞は殆ど無く、動きと踊りと芝居そのもので観せる舞台は、圧巻で、観せるだけでなく魅せる舞台でもあった。一人でも多くの人に観て欲しい舞台。

こんな凄くて、面白いエンターテインメントな舞台を久しぶりに観た。台詞はほとんど無く、動きと踊りと芝居そのもので観せる舞台は、圧巻で、観せるだけでなく魅せる舞台でもあった。一人でも多くの人に観て欲しい!

文:麻美 雪
 

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

0コメント

  • 1000 / 1000