Photo小説:『零れゆく記憶の中で』

 セピア色の写真のように、焼けて、色失せ、古びてゆく。

 時も、眺めも止まった世界。

 感情も、感慨も、何もなく。

 薄れて行く愛の記憶。

 もう、私が誰かすらも、何かすらも曖昧で、ただひとつ、ぼんやりと紗の掛かった記憶の向こうに陽炎のようなあなたの面影だけは、覚えている。

 悲しみが烈し過ぎて、櫛の歯が欠けるように、私の中から記憶が抜け落ち、指の隙間から零れる砂のように、思い出も感情も零れ落ちてゆく。

 ただひとり、あなたの名前とあなたの声と私を抱きしめたあなたの体温と私の好きなあなたの匂いとやさしいあなたの面影だけは、覚えている。

 私にはあなたしかなく、あなたしか要らない。あなたが私の中に在ればいい。

 私の心と軆が萎えて、命が枯れて、あなたのもとに逝くその日まで、私の中にあなたと共に......。


photo/文:麻美 雪


麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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