詩:『戻らない時』『戻らない時』 もしも 許されるのなら 戻りたい時間があった けれど 今なら解る それはただ 私の我儘だったと 唇から零れた言葉も 失われた時間も 過ぎ去った日々も 零れた水のように 幾ら満たしても 元通りにならないのと 同じこと 今 私に出来ることは 省みて 心に刻み 今を明日を 真っ直ぐに 歩いてゆく事詩:麻美 雪 2017.07.31 08:44詩
詩:『遺伝子の記憶』『遺伝子の記憶』 淘汰されない 悲しみと 紅黒い 靄のような 嫉妬が 血液の中に 拡がって行く 海馬を騙して 忘れた振りをしても 遺伝子が憶えてる 淘汰されない 悲しみが 誰かを 求める度に 遺伝子を呼び覚まし 同じ傷みを 繰り返す 淘汰されない 悲しみが 目の前の あなたの愛を 拒絶する 求めればまた あなたも 私に 同じ傷みを 残すと 遺伝子の宿命に 搦め取られて 蒼黒い怯えが 細胞に浸潤して 愛の萌芽を 殺してゆく詩:麻美 雪 2017.07.28 08:24詩
photo小説:『向日葵』 あの頃、太陽は眩しくて、空は青くて、夏はきらきらしているものだと思っていた。 夏に翳りが差す事なんて、一生無いとおもっていた。 今年もまた、青い空と白い雲と、焼け付くような太陽と、日に向いて咲き乱れる向日葵畑にあなたと来ると思っていた。 またひとつ、あなたとの夏を、あなたとの思い出を重ねるのだと疑うこと無く信じていた。 あの日、太陽は燃え尽き、空は落ち、雲は吹き飛ばされ、向日葵は俯き、私の世界は一瞬にして、色も音も手触りも喪った。 青天の霹靂。 今年も、あの向日葵畑に行こうとしていた朝。私を迎えに来る途中、居眠り運転の車に追突されて、彼の命は花びらのようにアスファルトの上に散って行った。 リノリウムの床に、やけに大きく白々しく響く...2017.07.27 06:46photo story gallery
詩:『ジグソーパズル』 『ジグソーパズル』 何処にも行かせない あなたがきつく 抱きしめた 虚ろな私の軆 あなたは 知っているのに 何故そんなに やさしく抱くの あなたでない 誰かが 私を壊して 棄てたこと 知っているのに あなたはなぜ そんな私を 愛せるの? 君の過去も 現在(いま)も 未来をも 愛しむのが 愛だから 柔らかく笑う あなたに 私はもう 抗う術も無い 困ったことに そんなあなたを 求めてる 虚ろな軆を持つ私 虚ろな軆も 虚ろな心も ふたりで満たして 行けばいい そんなあなたに 惚れた私と ちっぽけな私を 愛したあなた 互いの割符を 合わせてみたら ぴたりと嵌った ジグソーパズル 詩:麻美 雪2017.07.26 06:12詩
『永久の記憶永遠の幻』 もしも、あの時に戻れるのなら。 何かが変わっていたのだろうか。 失うことを畏れ過ぎて、自らの手で壊してしまった幸せを悔いていると言うには、我儘だと解っている。 来るか来ないか判らない、別れを恐れた。 あまりにも、幸せだったから。 失うことが、耐えられなくて、いつか、どちらかの心を変えてしまう時が来る事が苦しくて.....。 だから、あなたを愛し過ぎる前に、幸せから手を離してしまった。 赦されるなんて、思ってはいないけれど、こんな麗らかで優しい朝に照らされていると、あなたのことを、あなたと刻んだ穏やかな時間を思い出す。 想い出は美し過ぎて、儚く脆くて、それ故に愛おしく、深く胸に残る。 春の終わりを惜しむように、はらはらと散ってゆく桜...2017.07.25 10:51photo story gallery
詩:『あやふや』『あやふや』 低く垂れ篭める 鈍色の雲 昼と夜の 境も曖昧になる あなたを 愛しているのか 愛していないのかも あやふやなように もう構わないわ あなたが誰と居ても 何処に居ても 今はただ ゆつゆつとした ゼリーの海に 漂うように 抗い切れない 眠りに 身を任せ 何もかも 忘れ去ってしまいたい あなたのことも 愛したことも詩:麻美 雪 2017.07.24 09:56詩
『色の無い檻』 苦しいの....。 傍から見たら、美しい飾り紐に縁どられた綺麗な住処。 外から見れば、綺麗な世界。 捕えられ、この美しい檻に閉じ込められた私たち。 内から見れば、色の無い、寒々とした世界。 生きている間は、一生此処から出られない。 美しいべべを纏って、呼ばれた方へ泳いで行って、しゃなり、しなりと科(しな)を作って、パクパクと水面から顔を出し、束の間の不自由な自由を味わうだけ。 遊女を金魚に例えるけれど、金魚も遊女によく似てる。 此処から出られるのは、命の尽きた時。 苦しいの。 此処から出して。 捕えられ、美しい檻に閉じ込められた私たちの叫びを知らぬあなたは、屈託なく、今日も私を呼ぶ。 ねぇ、苦しいの。 此処から出して。 薄れて行く...2017.07.22 07:35photo story galleryphoto小説
詩:『結婚』 『結婚』 見果てぬ夢を 追いかけて 終わりのない 道を歩き続けるように 来た道を戻るには 遠く 見えない終着点を 目指すには 遠いとも近いとも言えず 旅の途中で 佇む夢追人のように 揺れながら 惑いながら それでも見たい 景色のために 諦めては求め 求めては諦めてを 繰り返しながら 本能に導かれ 歩いてゆく 誰かと共に 歩いてゆくこと 共に暮らすと言うことは そういうことだから 一度繋ぎ合った 手は話さないこと それがふたりで 生きるということ詩:麻美 雪 2017.07.21 10:47詩
Photo小説『桜の夜に』 朧気に霞む夜の桜。 一片二片散り敷く薄紅色は、終(つい)えてゆく命の儚さ。 「忘れないで私の事を」 微かになってゆく貴女の声。 「どうか、笑顔で思い出して。笑顔で思い出せないのなら、その時は私の事を忘れて下さい」 貴女の瞳がひたむきに僕を見つめて言う。 悲しみに暮れる僕を見るのは辛いから、笑顔で思い出せないなら忘れて欲しいと言う貴女の優しさと強さ。 白く透き通りゆく手に陽の光のような檸檬を取って、小さく噛んだ檸檬の香気に、最後の命の明るさが貴女を包む。 「どうか、笑顔で思い出して。」 細くなってゆく貴女の声。 「愛してる」 ひとつ大きく檸檬の馨の息をして、優しい瞳を閉じて儚くなった貴女。 夜の桜が悼むように、音もなくはらりはらりと...2017.07.20 10:50photo小説
詩:『暮れゆく空』 『暮れゆく空』 風に吹かれて 暮れてゆく 空を見ていた 夏の昼の喧騒が 一瞬形(なり)を潜め 熱に疲れたような 淋しさを滲ませた 蝉の声 秋を一滴 垂らしたような 切なさが 空を染めてゆくのを 寂しいような 懐かしいような 甘酸っぱい 苺のような 郷愁が胸に萌(きざ)す 生温(なまぬく)い 儚さの中で ひとり 暮れてゆく空を 見ていた詩:麻美 雪 2017.07.19 09:05詩
詩:『夜に抱かれ』 『夜に抱かれ』 天鵞絨の夜に抱(いだ)かれ 闇に蠢く 気配に目を凝らす 密やかな躊躇い 戸惑う吐息 蹲った淋しさ 届かない指 息を潜める 孤独 夜が流した涙 差し込む月明かり 蒼白い傷み 愛の朽ちてゆく時の 甘く哀しい馨り 天鵞絨の夜に抱か(いだ)かれ 蒼い闇に 愛を弔う詩:麻美 雪 2017.07.18 10:40詩
『いつか記憶から零れ落ちるとしても』 灰紫の空に呑まれて、記憶の中にひとり佇む。 靄が掛かったように全てがぼやけて、現実なのか夢なのかさえ曖昧で、心許ないふわふわとした感覚だけが身を包む。 さっきまで覚えていた番号も、判別出来ていた顔も、忘れ得ぬはずの思い出も、全てが薄衣を纏ったように、ぼんやりとしている。 覚えて起きたかった大切な言葉も、愛しかった声も、重ねた指の温もりも、全てが朧気になってゆく。 最後まで忘れたくなかった面差しも、もう全て濃く立ち込めた霧の向う。 例え全てが記憶から零れ落ちたとしても、あなたが点した、胸に灯り続ける愛の温かさを命果てゆくその時に、私はきっと憶(おも)い出す。photo/文:麻美 雪2017.07.17 04:54photo story gallery