Photo Story Gallery:『涙櫻』 儚い青に、滲むように霞む桜色。 手を伸ばし、掴もうとして零れ落ちて行く春の光。 指の隙間からすり抜けて行く幸せのように、空の青も、桜の色も、はらはらと散り、消えてゆく。 あなたのやさしい眼差しも、温かい掌も、柔らかな微笑みも、包み込む深い声も、瞳の中で空の青と桜の色と溶けて滲んで、ゆらゆら揺れる。 溢れ落ちないように、目を見開いて、空を見上げる。 胸の中で啜り泣く、押し殺した嗚咽が、熱い痼(しこり)となって、喉を塞ぐ。 ヒュッと息にならない息が漏れる。 言葉も無く、ひとり佇む。 幾億の声にならない言葉が、胸の中に降り積もる。 声を失くした人魚のように、焼け付くように痛む足の代わりに、悲しみが血を流す。 儚い青に、滲むように揺れる桜...2018.06.03 14:20photo story gallery
PhotoStoryGallery:『Lunatic~月夜の森~』 月明かりに誘われて、迷い込む夜の帳。 手繰り寄せる痛み。 危ない森に溶けてくように、誘(いざ)われる月夜。 狂ったのは誰。狂わせたのはあなた? 堕ちて行く心。 紅く染まる哀しみ。掌の切なさ。 膚を喰む孤独。 Lunatic。月の鏡に映る蒼ざめた横顔。 私の胸の底深く、眠らせた罪はただひとつ。 あなたを愛し過ぎたこと。 月明かりに誘われて、迷い込む夜の森。 手繰り寄せた痛みに身を巻かれ、蹲る夜の隅。 蒼い孤独が身を焼いて、悲しみだけが残る掌を、月に翳して涙が夜に散る。 photo/文:麻美 雪2018.02.22 18:02photo story gallery
PhotoStoryGallery:『-4℃の朝』 東京の気温が、-4℃になった朝。 いつものように、出勤するために家を出て歩き出す。 ふと、あなたも同じ空を遠く離れた北の地で、見ているだろうかと立ち止まり、空を見上げた。 あなたの居る北の地は、きっともっと寒い筈。 あなたが隣に居たならば、あなたの隣に居たならば、寒いねと言って、手を繋いで温め合うことも出来るのにとひとりごつ。 白く氷った息が夜明け前の空に、ふわりと昇ってゆく。 あなたの名前を、そっと唇に乗せてみる。 胸の内が、ほっこりと温かくなる。 距離がふたりを隔てても、まだ、大丈夫。 あなたを思う度、あなたの名前を呼ぶ度に、心にぽっと火が灯るから。 離れていても、あなたとの明日を疑わずにいられる今があれば。 「行ってきます」...2018.01.16 06:00photo story gallery
PhotoStoryGallery:『毒の華』 咲いて咲かせて、毒の華。 あなたの心に焼き付いて、記憶からも消えない程に、残ればいい。 あなたが見たい私の姿、その儘に。 あなたが求めた、触れたら壊れ、堕ちてゆく、妖しい毒を孕んだ女の残像を。 何処にでもいる、目立たない、庭の隅でそっと蹲って咲いている私ではない、毒の華。 咲いて咲かせて、毒の華。 あなたの心に染み付いて、消えないならば、本当の私の花なんて、手折ってしまえと思ったけれど。 淋しい時に、そっと寄り添い抱きしめた、やさしい花が愛しくて、私は毒の華になり切れない。 咲いて咲かせて、毒の華。 私は、庭の片隅で、あなたに気づかれることも無く、ひっそりかんと、悲しい時に寄り添って、心に咲いたやさしい花に看取られて、土に還ります...2017.12.14 06:00photo story gallery
PhotoStoryGallery:『紅い花を手折って』 紅い花を手折って 私に下さい 花の紅い色は 私の心が流した泪。 あなたの色が移ろって、色を失くした 私の心が流した涙が染めた 紅い花は私。 だから、その紅い花を手折って、 一輪私に下さいな。 photo/文:麻美 雪2017.12.11 06:13photo story gallery
PhotoStoryGallery:『片隅に』 毎日なんて言いません。 気紛れでいいのです。 あなたが辛い時 寂しい時 悲しい時 切ない時 やるせない時に ほんの一瞬で構わない。 私の事を思い出してくれたら、それだけでいいのです。 たった一度こっきりでもいいのです。 あなたの一番、しんどい時に、私をぽっちり思い出してくれたら嬉しいのです。 その後、一生忘れ去られたとしても、たった1度、ちらりとでも私の事を思い出してくれたら、それだけでいいのです。 あなたの心の片隅に、目立たずに咲く花であったらいいなと思うのです。 たった1度、たった一瞬、あなたの心に咲けたら、枯れて土に還っても構わない。 あなたの心の片隅に、ぽっちりと咲く花になれたらと思うのです。photo/文:麻美 雪 2017.11.27 07:32photo story gallery
PhotoStoryGallery:『けなげ』 ひっそりと咲く昼顔。 凛とした一輪の花の後ろに、薄紅色の小さな花と寄り添うように、身を潜めて咲く、昼顔の花。 どちらもけなげで、どちらもほんのりと切ない。 守るものを持たぬひとり凛と立つ昼顔も、守るものを持ち、そっと寄り添って身を潜める昼顔も、どちらもいい。 ひとりの女の中に持っている顔とその昼顔は似ている。 ひとりでも生きられるけど、寄り添うよう人もいて欲しいと願う。 欲張りと人は言うかもしれない。 けれど、それでもそれぞれを緩やかに表わして咲く昼顔を、私はけなげに思ってしまう。photo/文:麻美 雪2017.11.17 07:42photo story gallery
PhotoStoryGallery:『ノスタルジー、あなた』 遠い記憶のように、薄れ行く景色。 人の顔も、抱きしめた温もりも、抱きしめられた柔らかさも、全ては遠い時間の果てにある。 ノスタルジー。 ひとことで言えば、それまでだけれど。 ひとことで終わらない、終われない時間がある。 爪の先に、目蓋の裏に、唇の真ん中に、胸の奥深く、或いは記憶の襞の中、或いは膚の奥、細胞のひとつひとつに、生温いまま残っているもの。 あなた。 あなたがまた、私の中に、ゆるく、消せない程には鮮やかに、まざまざと思い出すには薄衣を掛けたように、居る。 ノスタルジー。 あなた。 ノスタルジー。 ノスタルジーが、あなたと言う名に変わるまで? いいえ、あなたがノスタルジーという名に変わるまで、あとどれだけ、遠い記憶の中で微睡...2017.11.15 06:57photo story gallery
『滲む太陽』 緋く染まって、焼け落ちて行く太陽。 瞳の中で滲んで揺れる。 心燃やした、あの夏が終わってゆく刹那にも似た、居たたまれない程の切なさに泣く胸。 指先を凍らす冬の夕暮れ。 その緋さに佇み、暮れ泥む。 逢いたいと思うほど、離れて行く心を持て余す。 きっと、ふたり、同じ時にきづいていた。 心焦がす、熱病のような時の終わりに。 責めるではなく、哀しいのでもなく、ただ、住み馴れた部屋を出て行くような、肌に馴染んだ毛布に別れを告げるような、少女から大人になる時のような、歯痒いひと欠片の寂しさと切なさに震えただけ。 緋い夕陽が、胸につかえた何かを溶かす。 もう、いいね。 心に兆す思い。 赦されているような夕焼けに、一雫の涙を落とし、私の場所へ帰っ...2017.11.01 06:48photo story gallery
『潰えゆく花のように』 季節外れの紫陽花のように、花の盛りも過ぎて久しい私の姿。 花の色は移にけりな徒(いたずら)に、純真無垢な紫陽花は、陽を浴び、雨に潤され、仄かに花の顔(かんばせ)を、薄紅色に染めながら、いつしか蒼ざめ、薄紫に憂いを纏い、徒(あだ)に儚く色を変え、この世の春を一身に移り気、浮気、触れなば落ちんの色香があるとチヤホヤされる絶頂を集める命短し恋せよ女。 花の命は短くて、瑞々しさが奪われて、日に日に色褪せ、萎れゆく、潰えゆく最期の姿までも不思議な程に美しい、紫陽花のような女になれたら、あなたの心は私の上に残ったろうか。 詮無き問の繰り言を、秋の鏡に映してみては、今日も憂いのため息ひとつ。 photo/文:麻美 雪2017.09.17 12:54photo story gallery
『紅い花』 紅い花が胸に咲く。 血のような真紅の哀しみが滴る花が....。 堰き止める術も無いまま、蒼ざめてゆく心。 血の気のない横顔。 色を失くした唇。 何も映らない瞳。 力無く崩れ折れる軆。 人知れず、夜の闇に、今宵も緋い血を流し、私の胸に紅い花が花開く。photo/文:麻美 雪 2017.09.14 06:55photo story gallery
Photo Story Gallery:『遊女』 焼けるように熱い紅。 水の中を逃げ惑い、逃れようとするけれど、厚い硝子に阻まれて、逃れる術さえ今は無く。 冷たい水に、焼かれるように、思い焦がれた行く末は、ただ割かれるだけの定めなら、なまじ恋など知らぬが幸せ。 己が身に、愛想尽かしヲ言ってはみても、胸軋ませる切なさが、胸を裂く。 緋い襦袢をひらひらと、尾鰭のようにひらめかせ、意の染まぬ男に、身を委ね、心の中は血の泪を流して隠す、彼の人への真心を。 今宵も白い化粧の下に、隠して忍ぶ、紅い檻に囚われし、金魚のように艶やかな緋いべべ着た、私は遊女。photo/文:麻美 雪2017.09.08 14:55photo story gallery