Photo Story Gallery:『涙櫻』

 儚い青に、滲むように霞む桜色。

 手を伸ばし、掴もうとして零れ落ちて行く春の光。

 指の隙間からすり抜けて行く幸せのように、空の青も、桜の色も、はらはらと散り、消えてゆく。

 あなたのやさしい眼差しも、温かい掌も、柔らかな微笑みも、包み込む深い声も、瞳の中で空の青と桜の色と溶けて滲んで、ゆらゆら揺れる。

 溢れ落ちないように、目を見開いて、空を見上げる。

 胸の中で啜り泣く、押し殺した嗚咽が、熱い痼(しこり)となって、喉を塞ぐ。

 ヒュッと息にならない息が漏れる。

 言葉も無く、ひとり佇む。

 幾億の声にならない言葉が、胸の中に降り積もる。

 声を失くした人魚のように、焼け付くように痛む足の代わりに、悲しみが血を流す。

 儚い青に、滲むように揺れる桜色。

 瞳から、ぽろりと滑り落ちて、土に還る。

 私ひとりを此処に残して。

photo/文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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