灰紫の空に呑まれて、記憶の中にひとり佇む。
靄が掛かったように全てがぼやけて、現実なのか夢なのかさえ曖昧で、心許ないふわふわとした感覚だけが身を包む。
さっきまで覚えていた番号も、判別出来ていた顔も、忘れ得ぬはずの思い出も、全てが薄衣を纏ったように、ぼんやりとしている。
覚えて起きたかった大切な言葉も、愛しかった声も、重ねた指の温もりも、全てが朧気になってゆく。
最後まで忘れたくなかった面差しも、もう全て濃く立ち込めた霧の向う。
例え全てが記憶から零れ落ちたとしても、あなたが点した、胸に灯り続ける愛の温かさを命果てゆくその時に、私はきっと憶(おも)い出す。
photo/文:麻美 雪
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