2020.10.01 13:21Photo詩:『十五夜の月は』 『十五夜の月は』 山の端に架かる 十五夜の月は 逢えなくなった人の 面差しに似て 私を切なく 温かく照らす 月に住む 兎のように 彼の人が此岸に 留まれるのなら この命さえ 差し出したものを 十五夜の月は 今宵も私を 寂しく 優しく照らす 逢えなくなった 彼の人の命を 私の中に 静かに降り注ぐ 十五夜の月は 少しだけ 哀しいphoto/詩:麻美 雪Photo詩
2020.09.29 12:19Photo小説:『もしも私が消えたなら』『もしも私が消えたなら』 もしも私が自分の手で、この世界から自らを消したなら、親戚(あなた達)はなんと言うだろう。 「まさか、あの子が」 「子供の頃からしっかりしていて、落ち着いていて、芯の強いあの子が、なぜ、どうして?」 「そんなに悩んでいたなら相談してくれれば良かったのに」 「何があったのか?」「何を悩んでいたのか?」 きっと、私が消えたくなった理由など解らないだろう。 そして、他人(あなた達)は、憶測を一人歩きさせて、あれこれと解ったような事を呟き、哀れみ、冥福を祈るのだろう。 きっと、理由を書き残しても親戚(あなた達)には解らないだろう。 生きる事に追い詰められていた時に、手を差し伸べる事もなく、悪気なく発した、「頑張って」...photo小説
2020.06.19 03:12Photo小説:『雨』 雨の音で目覚めた。 窓の外は土砂降りで、部屋の中に降り込められる。 小さな灯だけ点けて、薄闇の中で雨の音を聴く。 目を閉じると部屋の中に満ちた雨の音で、雨の中に閉じ込められる。 風の音で 目覚めた夜明けは薄明かり あなたの肩にかけるシーツ 小林麻美の『Typhoon』が、頭の中で流れ続ける。 嘗て愛した人の面影が淡く掠め、幼い日の雨の記憶が過ぎる。 もう少し、眠ろうとするけれど、一度覚めた眠りは訪れてはくれない。 眠れぬままに、枕元の本に手を伸ばし、薄明かりの中で、雨の音を聴きながら、言葉の波間に漂う。 窓の外は雨。 時を止めた儘。 雨の中に閉じ込められて、恋の残り香を聞いている。photo/文:麻美 雪photo小説
2020.06.17 06:29Photo小説:『もう一度だけ時を止めて』 あの日から、部屋の隅で、色褪せ、渇いて時を止めた花。 残り香も今は無く。 凍った時間だけが漂う部屋。 あなたといつも語らった喫茶店。 10年振りに何気なく立ち寄って、見るはずのない幻を見た。 あなたと私の間に凍った時が溶け出して、ゆっくりと動く。 証のないあなたの左手と私の左手。 あなたの温もりが、私の胸に色を注(さ)す。 渇いて、色を失くした部屋の花を染めて。 もう一度だけ、このまま二人の時を止めて。photo/文:麻美 雪photo小説
2020.04.07 06:43劇団シアターザロケッツ:『よつば診療浪漫劇』2020年弥生 過日 PM14:00 中野 ザ・ポケット 午後から雨だという天気予報が嘘のような、麗らかで暖かな昼下がり、桜が街を染める弥生過日、劇団シアターザロケッツ第十回舞台公演『よつば診療浪漫劇』を観に中野 ザ・ポケットへと足を運んだ。劇場に入り、席に着き、目の前に広がったのは、 時は大正。所はよつば診療所。 若い女を連れて蒸発した父、父の蒸発後、母を病気で亡くした事がきっかけになり、医者になってよつば診療所を開業した真(井上貴々さん)の診療所に、波乱の半生を送った末に泥棒家業に至り、息子の診療所と知らずに空き巣に入り、診療所で出くわした面々についた嘘が原因で逃げるに逃げられなくなった父 次郎と診療所に訪れる人たちが繰り広げる...観劇記
2020.03.31 04:05ザ・ミュージアム:『永遠のソール・ライター展』 先月、飯田ナオリ1人朗読劇PLUS『風曜日シアター11』を観に行く前に、渋谷Bunkamura ザ・ミュージアムに寄って、観た『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター展』。 訪れたのは、風が強い土曜日の昼下がり。 新型コロナウイルスのニュースが連日、ニュースを賑わせ始めた頃。今ほど、エンターテイメントやイベントの自粛、中止要請が緩やかであったとは言え、このまま行けばこの写真展も開催期間半ばで中止になるかも知れない予感がして、観劇前に足を運んだ。 雨催いとコロナの影響かいつもよりは人出が少なく、濃厚接触の恐れもなく、静香にゆっくりと観ることが出来た。 ソール・ライターと言えば、雨、雨粒、水滴、雪をモチーフとして好み...
2020.03.27 06:05Mono-Musica:『音楽劇 名探偵アンドリュー氏と黄昏の家』2020.3.21㈯ PM14:00 新中野ワニズホール 前日までの肌寒さが嘘のように、固く蕾んだ桜が微笑むように花開き、冬のコートもジャケットも要らない、麗らかに晴れてほんのり汗ばむ程に暖かな土曜日の昼下がり、新中野の空の下、Mono-Musica『音楽劇 名探偵アンドリュー氏と黄昏の家』を観るために、ワニズホールへと足を運んだ。 美形でちょっぴり傍迷惑な自称、完全無欠の天才探偵アンドリュー(杏さん)、しっかり者の助手(ヤヤさん)、依頼人の伯爵令嬢・遠城寺十和子(チャングさん)とその夫遠城寺匠(MIKUさん)、十和子の持つ画家カヴァネラの描いた『黄昏』を狙う、冒険小説に登場する『美しき女怪盗ビューティー仮面』。 江戸川乱歩の『明智...観劇記
2020.03.26 06:04時代絵巻AsH番外公演:『鬼人幻燈抄~水泡の日々~葛野組』 2020.3.14㈯ PM19:00 池袋シアターグリーン・BASE THEATRE 雨から束の間の春の雪へと移ろい、ひらひら雪の舞う土曜日の夜の池袋をシアターグリーン・BASE シアターへと時代絵巻AsH番外公演『鬼人幻燈抄~水泡の日々~葛野組』を観に足を運んだ。 幕が開いた瞬間から、引き込まれ気がつけば冷えた身体がいつの間にか暖まり、いつきひめである白夜(櫻井彩子さん)と幼なじみで巫女守である甚太(村田祐輔さん)の互いに抱く恋心を自らの胸の奥底に沈め、白夜は集落の者たちと集落の繁栄の為に、鬼に殺された先代のいつきひめだった母の後を幼くして自らの意思でいつきひめを継ぎことを決め、その決意を美しいと思い支える事を選んだ甚太の二人以...観劇記
2020.02.24 06:20飯田ナオリ1人朗読劇PLUS:『風曜日シアター11』2020.2.22㈯PM19:00 渋谷ギャラリールデコ6 飛ばされそうなほど強い、春一番かと思う風が吹き荒れた土曜日の夜、渋谷のギャラリー Le Deco 6階に、飯田ナオリ1人朗読劇PLUS『風曜日シアター11』を観に足を運んだ。 今回は、休憩なしの2時間半『とこしなえ郵便局 カゲフミ森の黒羊』が、早春の夜にそっと紡がれた。 現世では、人と違うというだけで白い羊の群れの中の黒い羊のように、蔑まれ、疎まれ、謗られ、石もて追われ、排除され、無視され、傷つき、絶望して生きて来たソムニオ(日比 博朋さん)とシルヴァ(飯田南織さん)。 絶望の中、出会った二人が森の中で、ひっそり互いの心を温め合うように束の間の幸せな時間を、それ...観劇記
2020.02.12 06:14劇団現代古典主義:『THE BROTHERS KARAMAZOV』 2020.2.8㈯PM14:30 劇団現代古典主義アトリエ 前日よりは幾分か暖かいとはいえ、寒の戻りの寒さが続く土曜日の昼下がり、代田橋の空の下、劇団現代古典主義アトリエに、劇団現代古典主義THE 4th floor series vol.7 逆再生『THE BROTHERS KARAMAZOV』を観に足を運んだ。 アトリエに入り、席に着くと正面に、人二人立てる程の小さな演台が3つ少しずつ離して置かれているだけで他には何も無い舞台がある。 其処で繰り広げられるのは、ドフトエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を原作にし、複数の場面に分割し同時間枠での別地点の物語を同時に進行し、台詞が様々な場所から次々に発しられ、時に同時に響き合う劇団...観劇記
2020.02.11 06:04スカレッティーナ演劇研究所:『夢十夜』 2020.2.7㈮PM20:00/2.8㈯PM17:00 東中野RAFT 寒の戻りの染み入るような寒さのただ中、金曜日の夜と土曜日の夕方、東中野RAFTで上演していたスカレッティーナ演劇研究所 第一回 実験室朗読会『夢十夜』に足を運んだ。 小西優司さん主宰のスカレッティーナ演劇研究所の朗読会は、2/8㈯17時の小西優司さんの独演会以外は、11名のメンバーの中から4~5名をレギュラーとして全ステージに出演しそれ以外は出演者が日替わりとなり、そこへ毎日日替わりのゲスト出演者を加えた10名で『夢十夜』を1話ずつ朗読する形式。 劇場に入ると、真ん中に斜めに置かれた椅子が一脚あり、その椅子を挟むように左右に向かい合わせて椅子が並...観劇記
2020.02.04 06:04REON NEO COMPANY:『帝都メルヒェン探偵~幽霊屋敷のブレーメン~』 2020.2.1㈯PM13:00 池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER 明け方地震に揺り起こされたものの、麗らかに晴れた土曜日の池袋を、池袋シアターグリーン BIG TREE THEATERへREON NEO COMPANY vol.2『帝都メルヒェン探偵録~幽霊屋敷のブレーメン~』を観に足を運んだ。 2階にある劇場へ入り、前から3列目の真ん中の席へ着くと目の前には、この物語の舞台となる“カフェグリム”の店内が現れる。 階段を下り、舞台右手に千崎理人の教育係であり、店主小野カオルに仕える“カフェー・グリム”の店員三宅が、珈琲を淹れるカウンター、舞台の左右に二人掛けの席が一席ずつある“カフェー・グリム”を舞台に起こ...観劇記