劇団シアターザロケッツ:『よつば診療浪漫劇』

2020年弥生 過日 PM14:00 中野 ザ・ポケット
 午後から雨だという天気予報が嘘のような、麗らかで暖かな昼下がり、桜が街を染める弥生過日、劇団シアターザロケッツ第十回舞台公演『よつば診療浪漫劇』を観に中野 ザ・ポケットへと足を運んだ。

劇場に入り、席に着き、目の前に広がったのは、

 時は大正。所はよつば診療所。

 若い女を連れて蒸発した父、父の蒸発後、母を病気で亡くした事がきっかけになり、医者になってよつば診療所を開業した真(井上貴々さん)の診療所に、波乱の半生を送った末に泥棒家業に至り、息子の診療所と知らずに空き巣に入り、診療所で出くわした面々についた嘘が原因で逃げるに逃げられなくなった父 次郎と診療所に訪れる人たちが繰り広げる、夢と希望、愛と別れ、嘘と真の笑ってほろりとする浪漫喜劇。

 行き当たりばったり、口から次々溢れる次郎の嘘が診療所に集まる、悩みや惑い、夢を抱えた人々の心に響き、背中を押すきっかけになったのは、次郎の嘘に一欠片の実があるからではないのだろうか。

 それは、物語を書く時に99の嘘をそこにあるかの如く成立させるのに、1つの真実を核にするような、1つの真実を99の嘘で包み、物語を作り上げるのに似ている。

 結末へ向けて、解き解されてゆく次郎の蒸発した本当の理由、それによって溶けてゆく真の父へのわだかまり。

 次郎の言葉で、次郎と接するうちに、それぞれがそれぞれの夢と希望を見出して行く。
 笑って、笑って、ほのかな切なさとほろりと沁みる温かで、久しぶりにお腹の底から笑って暫し今を取り巻く落ち着かない状況を忘れた舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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