時代絵巻AsH番外公演:『鬼人幻燈抄~水泡の日々~葛野組』

 2020.3.14㈯ PM19:00 池袋シアターグリーン・BASE THEATRE

 雨から束の間の春の雪へと移ろい、ひらひら雪の舞う土曜日の夜の池袋をシアターグリーン・BASE シアターへと時代絵巻AsH番外公演『鬼人幻燈抄~水泡の日々~葛野組』を観に足を運んだ。

 幕が開いた瞬間から、引き込まれ気がつけば冷えた身体がいつの間にか暖まり、いつきひめである白夜(櫻井彩子さん)と幼なじみで巫女守である甚太(村田祐輔さん)の互いに抱く恋心を自らの胸の奥底に沈め、白夜は集落の者たちと集落の繁栄の為に、鬼に殺された先代のいつきひめだった母の後を幼くして自らの意思でいつきひめを継ぎことを決め、その決意を美しいと思い支える事を選んだ甚太の二人以外には誰も、理解し得ない生き方と思い、二人に想いを寄せる者たちとの気持ちと想いの掛け違えが招いたやり場のない悲しみと痛み、それぞれがそれぞれの成すことを成すために、翻弄され、掛け違え、すれ違い、奪われて行く命、誰よりもかけがえのない白夜を誰よりもかけがえのないと思っていた妹鈴音(辻村りかさん/伊藤優希さん)の甚太への想いの暴走が己が中に眠っていた鬼を覚醒させ殺した鈴音への烈しい甚太憤りと葛藤、そこから170年後の現代に現れた甚太の佇まいに涙が溢れていた。

 原作を読んでいた時から感じていた、鬼の血を引く鈴音の鬼を覚醒させた遠見の鬼(生粋万鈴さん)にしても、遠見の鬼と共に葛野の集落を襲う剛力の鬼(黒﨑翔晴さん)もまた、自分たち鬼が人々に忘れられ、この世に存在しなくなり物語の中だけの存在になる事を阻止すべく、何の恨みもない葛野の人たちを殺め、鬼神となり、鬼をこの世に留め、忘れ去られないようにする為、自分たちの居場所を残すために、白夜を、葛野を襲いはしても遠見の鬼も剛力の鬼も何処かにすまなさのようなものを抱えているのではというのを、生粋万鈴さんの『あんた達には悪いけどね』のひと言で強く感じた。

 遠見の鬼と剛力の鬼も互いを想い、それでも尚、鬼族の未来の為に、喩え自分たちが犠牲になっても、心ならずも鈴音を利用し、何の恨みもない葛野の人達を犠牲にしても、自分たちが成すべきことを成すために犠牲にする。

 白夜は葛野と葛野の民たちの為、甚太はそんな白夜の為、互いの恋心を胸に沈め、いつきひめと巫女守として、共に葛野を守る事を選んだ。

 これも、ひとつの愛のかたちである。しかし、それを理解し得る者は多くはない。それは、恐らく、白夜と甚太の二人しか理解し得ない思いだったろう。

 だからこそ、白夜を想い、ただ白夜の傍に居られればいいと思いながら、甚太に嫉妬しつつも、白夜への想いを誰にも明かさなかった清正(愛太さん)は、甚太とは母の違う、鬼と人間の間に生まれ鬼の血を引き、父に虐待されていた自分を守ってくれた兄甚太へ思いを寄せながら、兄が白夜と幸せになることを信じて、想いを抑えていたのに、息子可愛さから清正といつきひめを後継を成すためとの大義名分で妻せ(めあわせ)ようとした葛野の長(垣内あきらさん)の説得によって清正と夫婦になることを決めた白夜を憎み鬼と化し、鈴音が白夜を殺めるという悲劇へと至ってしまったのではないだろうか。

 それぞれの成すべきこと、掛け違い、すれ違う想い、もし、鈴音が白夜と甚太の決めた生き方が、誰よりも二人を強く結びつけ、真から互いを思う愛のかたちであったのだと知っていたなら、この水泡の日々は無かったのかも知れない。

 此処に出てくる誰もが、誰しをも思っているのに、それぞれの持つ思いと生き方、成すべきことを掛け違い、理解し得なかった事が引き起こした悲劇が胸を抉る。

 人の命も、鬼の命も、流れ行き、過ぎて行く時は、全て儚い水泡。その日々の中で、確かに白夜も甚太も生きた。

 二人の日々は、喩え水泡の日々でも、170年後の現代にも白夜と甚太の守ったもの、思いは子孫へと引き継がれ、儚い水泡ではない。そんな事を、次から次へと胸に去来した舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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