Photo小説:『雨』

 雨の音で目覚めた。

 窓の外は土砂降りで、部屋の中に降り込められる。

 小さな灯だけ点けて、薄闇の中で雨の音を聴く。

 目を閉じると部屋の中に満ちた雨の音で、雨の中に閉じ込められる。

 風の音で 目覚めた夜明けは薄明かり
  あなたの肩にかけるシーツ

 小林麻美の『Typhoon』が、頭の中で流れ続ける。

 嘗て愛した人の面影が淡く掠め、幼い日の雨の記憶が過ぎる。

 もう少し、眠ろうとするけれど、一度覚めた眠りは訪れてはくれない。

 眠れぬままに、枕元の本に手を伸ばし、薄明かりの中で、雨の音を聴きながら、言葉の波間に漂う。

 窓の外は雨。

 時を止めた儘。

 雨の中に閉じ込められて、恋の残り香を聞いている。

photo/文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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