Photo小説:『水晶の中の空』 つるりとまあるい水晶に、空を閉じ込めてみる。 どこかで見たような形。 ああ、地球か。 「地球は青い」と言ったのは、ガガーリンだったか。定かではない記憶を探るが、思い出すのも面倒になり、まあ、いいやと記憶を放り投げる。 あの日から、私の記憶も時間も感情も止まったままだ。 生きながら死んでいると、友人たちは心配するが、そんな事もどうてもいい。 あなたのいない世界など、なんの意味も無い。 本当は、知っている。 そう思う事さえも、無駄な事だと。 人間なんて、幾ら悲しみ続けようとしたって、死にたいと思ったって、お腹は空くし、空けば食べるし、ナンダカンダうだうだ、ウジウジしても、眠りもするし、結局、生きてしまうものだってこと。 そうそう簡単に...2017.09.25 06:00photo小説
Photo小説:『夜の迷路』 夜の底、ひとりぼっちで、悲しいくらい何も見えない。 虫の音も夜を横切る車の音も何も無い。 ただ、ポッカリと夜の藍(あお)が口を開ける。 その夜の藍に、パクリと一吞み。 気つけば蒼い迷路に囚われて、退くも行くも儘ならぬまま、四方を硝子に囲まれる。 何も映らない夜の底、硝子に映ったちっぽけな私だけが蹲る。 苦しくて、息が出来ない。新しい空気が欲しい。月の光を求め、夜の天井を仰ぐ。 行きたい。生きていたいの。たとえ、独りでも構わない。 息苦しい、夜の迷路から出られるのなら。 声の無い慟哭に揺り起こされて、独りベッドの上で、膝を抱える私に気づく。 夜の底で見た夢か、夜の底が見せた現か解らない。 解ったのは、まだ、生きていたいということ。...2017.09.19 10:33photo小説
『潰えゆく花のように』 季節外れの紫陽花のように、花の盛りも過ぎて久しい私の姿。 花の色は移にけりな徒(いたずら)に、純真無垢な紫陽花は、陽を浴び、雨に潤され、仄かに花の顔(かんばせ)を、薄紅色に染めながら、いつしか蒼ざめ、薄紫に憂いを纏い、徒(あだ)に儚く色を変え、この世の春を一身に移り気、浮気、触れなば落ちんの色香があるとチヤホヤされる絶頂を集める命短し恋せよ女。 花の命は短くて、瑞々しさが奪われて、日に日に色褪せ、萎れゆく、潰えゆく最期の姿までも不思議な程に美しい、紫陽花のような女になれたら、あなたの心は私の上に残ったろうか。 詮無き問の繰り言を、秋の鏡に映してみては、今日も憂いのため息ひとつ。 photo/文:麻美 雪2017.09.17 12:54photo story gallery
『紅い花』 紅い花が胸に咲く。 血のような真紅の哀しみが滴る花が....。 堰き止める術も無いまま、蒼ざめてゆく心。 血の気のない横顔。 色を失くした唇。 何も映らない瞳。 力無く崩れ折れる軆。 人知れず、夜の闇に、今宵も緋い血を流し、私の胸に紅い花が花開く。photo/文:麻美 雪 2017.09.14 06:55photo story gallery
幻想芸術集団 Les Miroirs:『アルラウネの館』 昨日の昼下がり、下北沢のdress roomに、幻想芸術集団 Les Miroirsの11月に再演される『アルラウネの滴り 改訂版』のプレイベント、『アルラウネの館』に行って参りました。 少し急な階段を上り、扉を開け中に一歩踏み入れると、黒い花の模様が這う葡萄酒色の壁に『白雪姫』に出て来そうな飾彫りの施されたらフレームの大きな鏡が掛かり、窓には真紅や白いレースのカーテン、天井には美しく、煌びやかなシャンデリア、葡萄酒色の柱には、羊か山羊かの首がかかっていたり、怪しげな物がぽつりぽつりとテーブルとソファーの間や壁にあったりとデカダンス漂う、正に、『アルラウネの館』が眼の前に広がっていた。 フリードリンクだったので、アイスコーヒーを選...2017.09.11 04:38観劇記
Photo Story Gallery:『遊女』 焼けるように熱い紅。 水の中を逃げ惑い、逃れようとするけれど、厚い硝子に阻まれて、逃れる術さえ今は無く。 冷たい水に、焼かれるように、思い焦がれた行く末は、ただ割かれるだけの定めなら、なまじ恋など知らぬが幸せ。 己が身に、愛想尽かしヲ言ってはみても、胸軋ませる切なさが、胸を裂く。 緋い襦袢をひらひらと、尾鰭のようにひらめかせ、意の染まぬ男に、身を委ね、心の中は血の泪を流して隠す、彼の人への真心を。 今宵も白い化粧の下に、隠して忍ぶ、紅い檻に囚われし、金魚のように艶やかな緋いべべ着た、私は遊女。photo/文:麻美 雪2017.09.08 14:55photo story gallery