Photo小説:『雨』 雨の音で目覚めた。 窓の外は土砂降りで、部屋の中に降り込められる。 小さな灯だけ点けて、薄闇の中で雨の音を聴く。 目を閉じると部屋の中に満ちた雨の音で、雨の中に閉じ込められる。 風の音で 目覚めた夜明けは薄明かり あなたの肩にかけるシーツ 小林麻美の『Typhoon』が、頭の中で流れ続ける。 嘗て愛した人の面影が淡く掠め、幼い日の雨の記憶が過ぎる。 もう少し、眠ろうとするけれど、一度覚めた眠りは訪れてはくれない。 眠れぬままに、枕元の本に手を伸ばし、薄明かりの中で、雨の音を聴きながら、言葉の波間に漂う。 窓の外は雨。 時を止めた儘。 雨の中に閉じ込められて、恋の残り香を聞いている。photo/文:麻美 雪2020.06.19 03:12photo小説
Photo小説:『もう一度だけ時を止めて』 あの日から、部屋の隅で、色褪せ、渇いて時を止めた花。 残り香も今は無く。 凍った時間だけが漂う部屋。 あなたといつも語らった喫茶店。 10年振りに何気なく立ち寄って、見るはずのない幻を見た。 あなたと私の間に凍った時が溶け出して、ゆっくりと動く。 証のないあなたの左手と私の左手。 あなたの温もりが、私の胸に色を注(さ)す。 渇いて、色を失くした部屋の花を染めて。 もう一度だけ、このまま二人の時を止めて。photo/文:麻美 雪2020.06.17 06:29photo小説