ベニバラ兎団:『リリアン』

 2019.5.2㈭ PM18:00 高田馬場 四谷天窓

 新元号令和になろうと変わらず、せっせと劇場へ足を運ぶ。朝の雨がカラリと上がり、心地好い晴天の下、高田馬場の四谷天窓に、ベニバラ兎団 Selection Theater―EXTRA Stage―『リリアン』を観に行った。

 高田馬場は、35年前に童話作家になるべく通っていた専門学校(日本児童教育専門学校童話創作科に2年間通っていた)がある場所で懐かしい街。

 四谷天窓の中に入ると、前から3列目右手の席に着く。目の前の舞台の上には、白い一人掛け用の背もたれのある革のソファーがひとつだけ。

 幕開けは、遠藤 三貴さんの一人芝居『おとなりさん』で、4本の短編芝居が、織り成されて行く。

 昨日が初日で、5/2~4と5/24~26とに分けられ、一部キャストを入れ替えたり、役を入れ替えたりして行われる舞台の為、これからご覧になる方もいられるので、あまり、事細かな感想を書くのは控させて頂き、全体の印象と感想をさっくりと書かせて頂きます。

 大学に通うため田舎から東京の激安アパートでは一人暮らしを始めたその日から、雨の日にだけ一日中ピアノを弾く、かおを見たことのないおとなりさんに、いつしか親近感を抱く、女子大生(遠藤三貴さん)の2年間の移ろいを描いた一人芝居『おとなりさん』は、ホラーめいた色を漂わせつつ、最後にふんわりした気持に鳴りながらも、ああ、そう来たかと思わせる展開が面白い。

 1度だけ、自分に笑いかけてくれたうつくしい女性を忘れられないでパートのマネキン(日比 博朋さん)が、その女性にもう一度会いたくて人間になりたいと願い、マネキンから人工呼吸の訓練用人形になり、ヒューマンダミー人形になり、少しずつ人間の身体に近づき、いつしか試を持つようになったヒューマンダミーが、最後に行き着き、悟ったものとはを描く一人芝居『ヒューマンダミーの行く先』は、コメディタッチでありながら、最後はちょっと切なくなる温かさが胸に広がった。

 小学校の時のいじめっ子金井(飯田南織さん)が、いじめていた相手滝藤(久下恭平さん)に送った同窓会の通知。来るとは期待していなかった滝藤がやって来て、小学校時代の思い出を語るうちに浮き彫りになる、いじめた側といじめられた側のそれぞれが抱える思いと、現在のそれぞれが抱える葛藤が、そのいじめの記憶に関わって来た時、いじめた側はいじめた人間の気持ちに初めて自分のした事の重さに思い至り、いじめられた側は、その事に葛藤するいじめた相手にどんな思いを抱くのかを描いた二人芝居『同窓会』は、ここまででは無いけれど、いじめと言う言葉が今ほど知られていなかった私の小学校時代、私もいじめに遭った事があり、その時の自分と重ね合わせながら、滝藤を思い、胸が苦しくなりつつも、自身の記憶も思い出も苦しみも痛みもなく、冷静に思い返せるようになった自分に気づき、乗り越えていた事を感じ、滝藤もきっと今、乗り越えつつあるのだと感じた。

 もし、今、滝藤と同じ思いをして、生きているのが辛いと思う人がいるのなら、もう少しだけ、生きてみたら開ける明日があるかも知れないとこの『同窓会』を見たら、かんじられるかも知れない。

 この『同窓会』、飯田南織さんと久下恭平さんの男性バージョンで観られるのは、今日までで、明日からは、滝藤役が舞川みやこさんに代わるので、女性バージョンに変わるので、また違った感じになると思われるので、男女でどう違っているか見比べてみるのも面白いかと思う。

 高いIQを持つが、感情を持たない少年リリアン(遠藤三貴さん)が、雲を追いかけ迷い込んだ森の中で見つけた家に、一人で住む病弱でもそとに出たことのない少年シロ(青野楓花さん)に出会い、一緒に暮らして行くうちに感情を持ち、喜び、悲しみ、楽しさ、寂しさ、嬉しい気持を知って行く姿を飯田南織さんの語りを混じえつつ描いた『リリアン』。

 シロのしなやかな強さと優しさと儚さ、リリアンのぎこちなく不器用なやさしさと、はじめて笑った時の笑顔の美しさ、最後の方は、胸が掴まれるような切なさで、涙があふれて止まらなくなるが、悲しみと言うよりは、その先にある温かなやさしさに心が、浸されて涙が流れ落ちる儚くて、切なくて、静かなうつくしさに満ちた物語だった。

 プリズムのように色を変え、様々な色彩のリリアンで編んだような、美しくて儚くて、ほんのり胸が痛くなる素敵な舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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