劇団シアターザロケッツ:『両家顔合わせ』

 2019.3.30㈯ PM14:00 中野ザ・ポケット
 花曇りの土曜日の昼下がり、中野のザ・ポケットに、林 里容さんが出演される劇団シアターザロケッツ『両家顔合わせ』を観に向かった。

 劇場に入り、左手真ん中列の丁度真ん中の席に着き目を舞台に転じると、料亭の一室と左手に桜、その下に赤い毛氈を敷いた縁台のある庭がある。

 此処は、東京郊外の老舗料亭「にしむら」。従業員の小坂慎之介(井上 貴々さん)は日課の庭の掃き掃除をしているが、雲ひとつない晴天のもと、「にしむら」を営む西村家の次女・桜(大森 美優さん)とその結婚相手、東条蒼史(佐藤 弘樹さん)の家族による両家顔合わせが、この一室で執り行われるため、いつもと違うソワソワ、ピリピリと落ち着かない雰囲気が漂っていた。

​ 妻に先立たれ男手ひとつで娘たちを育てた、婿養子の社長、徳一(鈴木 つかささん)は、娘の桜の結婚を祝福しながらも寂しく、慎之介に幾らかの愚痴を言わずにはいられない。

 つつがなく顔合わせがすすめば、幸せへの第一歩となる時間が間もなく訪れるはずだったが、蒼史の父宗男(赤沼 正一さん)が、実は、昔徳一が亡くなったと結婚するため、金を借りたまま、返済していなかった友人だったと知った従業員の慎之介は、桜の為に西村家の印象を良くしようと咄嗟に料理人熊田(木村 俊之さん)を替玉にして凌ぐことを思いつくが、次々と問題が発覚したり発生したり、問題につぐ問題が起こるドタバタ喜劇が繰り広げられる。

 勘違いが勘違いを呼び、「にしむら」挙って桜の結婚が上手くゆくようこの顔合わせを成功させる為に良かれと思って奔走し、重ねた嘘が次々と問題を発覚、発生させる可笑しさに初っ端から笑いに次ぐ笑いが劇場に響く。

 このまま、笑いの内に終わるのかと見せて、後半に向かって、父の娘を思う気持ち、娘が父を思う気持ちが、じわりじわりと胸に染みてきた。

 特に、徳一の父が娘を思う気持ちの切なさと深く包むような温かい愛情に、胸がじんわりと温かくなった。

 観ながら、我が身と重ねた。15歳の時母が亡くなり、私も兄と共に男手ひとつで乳に育てられた。私と父は相容れなく確執もあったが、そんな父も昨年亡くなった。

 父がもし生きていて、私が結婚する事になったら、父もこんな風な思いに浸り、私も父に対して確執を取り除き、何かを思ったろうかと考えた。

 父が健在の内に嫁ぐことは出来なかったが、私がこの先もしも嫁ぐことがあるのなら、父の代わりに、兄が花嫁の父の心境になるのだろうかなどと思いながら観た。
 
​ 3月の締め括りに観るのにぴったりの楽しくて、笑いながら、最後は父を想う娘、娘を想う父の溢れる愛情と思いにしみじみと温かい気持ちになる舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

0コメント

  • 1000 / 1000