スズキプロジェクトバージョンファイブ:『プラネタジャッジ』

 2019.1.10㈭ PM19:00 下北沢駅前劇場

 軆の芯まで冷えるような寒気と鈍色の空のなか、下北沢駅前劇場へと林 里容さんの出演された、スズキプロジェクトバージョンファイブ『プラネタジャッジ』を観に向かった。

 劇場に足を踏み入れ、前から2列目の真ん中列左寄りの席に着くと、客席に向いて昭和の特撮ヒーローものに出てくるような横にぐるりと長いデスクのセットと後ろに大きなスクリーンがあるだけの舞台が現れる。

 どこかの惑星の会議室で展開されるのは、9名こ審査員たちが対象となる惑星の情報を聞き「友好」か「侵略」のどちらかを決める会議。今回審査されるのは「地球」。9名の審査員に「地球」の情報を調べ伝えるのは、審査員達が出した結論を伝える機関の金村(林 里容さん)と岡野(立原ありささん)のふたり。
 果たして「地球」は「侵略」を免れ「友好」となり、平穏に続いて行くのか?それとも…。「地球」の審査をめぐって白熱するトーク、3D映像によって目の前に展開される真実に戸惑う審査員たち。果たして彼らが「地球」に対して選ぶ答えは「友好」か「侵略」か。最後にまさかの展開が待ち受けるSF会議劇。

 中盤までは、ただただ、審査会議という名のもとに次々と繰り出される言葉の掛け合いと応酬、そちこちに散りばめられる遊びとアドリブの可笑しさに、何も考えずにその可笑しさ面白さに身を委ね笑っていた。

 中盤、今の「地球」の3D映像によって現れた、地球人達也(じぇーむすさん)と美玲(南舞衣さん)の登場によって、徐々にシリアスな流れになって行く。

 最初は、大学の図書室で始まった達也と美玲の淡い恋の始まりが、美玲に横恋慕している美玲の従兄弟渡辺(金子和稔さん)が、達也に惹かれる美玲への捻れた想いから、後輩の香織を利用して達也に近づけ、達也から金を搾り取らせ、美玲が誤解するような状況を作り、二人の仲を裂き、自らの事業の失敗から得た借金を返済する為に、利用し尽くす為に薬漬けにした香織に達也からとことん金を絞り尽くさせ、夢を叶える為、世界を飛びまわり成功していたように見えていた美玲と達也が再会し、さてこれからという時に、香織と達也を誤解したまま数年を過ごし、夢を叶える為と自らを汚してしまった事に傷つき心身共に壊れた美玲によって刺され命潰える達也を見るに至って、会場から啜り泣きがもれるシリアスで切ない場面が展開される。

 達也と美玲のくだりは、何年間もの経過をダウンロードして3D映像として見ているという展開になっている。

 達也が騙されているのを知りながら困っている香織を放っておけず手を差し伸べ、美玲に刺されても美玲の痛みに気づけなかったことを詫びるという、とことん良い人である事に、胸が痛く切なくなる。

 このふたりを、達也を助けられないかと思うまでに、9名の審査員たちが感情移入して行く様子に、審査員たちの気持ちの揺らぎが出ていて、達也と美玲の進展に一喜一憂する場面は、笑いを誘った。

 実は、審査員はAI。人間に近い岡野と金村とAIの審査員たち。達也と美玲の顛末を見続けるうちにAIの審査員たちに芽生えたのは、人間のような心。

 このシステムを作った冨田は、人の心をシステムに組み込んだのではないか。だからこそ、話が進むにつれ、それが発動し、AIが人の心に似たものを持ち始めたのではなかったか。

 達也の最後は、救いようのない辛いものに見えて、美玲が嫉妬で刺すほど自分を愛していた事が解り、持って行き場のない愚かな選択をして後悔している自らに対する美玲の怒り、それを自分にぶつけるのは、美玲の達也に対する甘えであり、誰にも見せないそんな姿を自分にだけ見せてくれたことに僅かにでも幸せを感じていたかも知れない。愛する者のために死ぬ事は達也には悲しみではなかったのかも知れない。

 笑いだけでなく、人を思うということ、自分と似ていて非なる他人とどう関わってゆくのか、排除するのではなく、認め合い歩み寄ってゆくことでしか人は解り合えず、それは、逆に言えば、違いを認め合い歩み寄ってゆけば、共存共栄出来るということでもあるのではないかと考えながら観ていた。

 審査員たちが出した答えは、『侵略』。けれど、「愛」をもっての「侵略」という答えに、その事が感じられた。

 最後はまた、笑いのうちに幕を閉じ、悲しみと切なさの果てに、ひとすじの希望を見いだせた。希望を見い出せるようにするのも、また、己ひとりひとりの在り方でもある。

 笑って泣いて、考えて、笑って。様々な感情がジェットコースターのように襲って来るが、観終わった後の後味は爽快で、年明けに観るのにピッタリの舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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