2018.12.6(木) PM19:00 仙川 せんがわ劇場
暮れなずむ空を見ながら、自宅から一駅の仙川駅から程近いせんがわ劇場へ、劇団おぼんろのわかばやし めぐみさんが演出、おぼんろ主宰の末原拓馬さんが脚本を担当した、ナインコンプレックスプロデュース『えんとつ町のプペル』を観る為に向かった。
西野亮廣さんの絵本『えんとつ町のプペル』を原作に、劇団おぼんろ主宰の末原拓馬さんが脚本を書き、わかばやし めぐみさんが演出をしたこの物語は、『おまえがその目で見たものが真実だ』という、主人公ルビッチ(古賀瑠さん)に父ブルーノ(中山夢歩さん)が言常に言っていた一言を軸にして描かれている。
舞台中央に築かれたカラフルなゴミの山、エキストラシートと称されたいくつかの席が舞台の上に据えられ、色とりどりのペイントを施されたレインポンチョを着た観客が座り、セットの一部と化しながら舞台の上で目の前で繰り広げられるこの物語を観るという、今まで見たことがない大胆な演出。
物語は、煙突だらけで頭の上は、黒い煙でモックモクに覆われた「えんとつ町」の住人は、青い空も輝く星も、この町の他に世界が、国がある事を知らない。
レター(木の下敬志さん)と名乗るこの町を作った者の子孫と、この町から住人が外の世界に出ないよう、この町住人たちを留めるため、この町以外に外の世界があると主張する者を異端者として排除し、統制を守る異端審問官トシアキ(足立英昭さん)によって統治された「えんとつ町」に生きる父を亡くした少年ルビッチのもとにハロウィに現れたゴミ人間プペル。
「えんとつ町」の外には、他の国があり、空は青く、輝く星空だってあると言い、紙芝居で子供たちに語り続けた紙芝居屋の父ブルーノは、ある日突然行方不明になり、ルビッチは“嘘つきの子供”と言われ、孤独な日々を過ごしていた。
『おまえがその目で見たものが真実だ』と言った父の言葉を胸に育ったルビッチは、ある日ゴミ人間に出会い友達となり、彼に『プペル』と名付ける。
ずっと上を見上げる2人が見つけ、2人が起こし、2人に起こるハロウィンの奇跡の物語。
無知と盲信が危うい方向に傾いた時、思想統制や意を唱える者を異端として排除、迫害し、極端になると処刑する。ナチスを含め歴史の中で、そういう思想を持った独裁者立ちによって戦争は引き起こされた。
人が人を支配し、自分の是とするもの以外の事は否とし、悪とした時、そこに現れるのは真実を言うことの出来ない歪んだ世界。その歪んだ世界に真実を主張するものは、弾圧され、異端、虚言者の烙印を押される。それを間違いだと声を上げようとしても、己の身のみならず家族、親族、友人たちに類が及ぶ事を恐れて主張する事が出来なくなる怖さ。
ルビッチも一時は、そんな恐怖に押されて、心ならずもプペルを裏切るような発言をするが、最後にルビッチに勇気を与え、間違っている事は間違っている、正しい事は正しいのだと言わせたのもまた、父ブルーノの『おまえがその目で見たものが真実だ』という言葉であり、『信じぬくんだ、たとえ一人になっても』というルビッチの思いだった。
異端審問官トシアキにしても、そこにあったのは、レターの為にという事であり、その思いが誤った方に暴走してしまっただけで、心には愛されたいという孤独を抱えていたのかも知れない。
誰かに押し付けられ、言われた事を鵜呑みにするのではなく、大切なのは、自分の目で見て、触れて、聞いて、感じて、考えて、間違いは間違いと言い、信じ抜くことの大切さをもう一度思い出させてくれる温かく美しい魔法のような舞台だった。
文:麻美 雪
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