2018.12.1PM18:30 代田橋 劇団現代古典主義劇場
1ヶ月間の休みに入った初日。夜の蒼に染まる空を眺めつつ、代田橋の劇団現代古典主義のアトリエに、劇団現代古典主義のTHE 4th floor seriesvol.4『王様と魔術師ベイコン』を観に赴いた。
THE 4th floor seriesは、舞台上を複数場面に分割して同時間の枠で別の物語を同時に進行するという劇団現代古典主義オリジナルの演劇手法同時進響劇(どうじしんこうげき)を用いて、シェークスピアを始め古典の名作、古典劇を原作の時代背景や風俗は残したままで、身近にわかりやすく脚色、再構成して世界の古典の名作や古典劇を70分に凝縮し、4階にある劇団現代古典主義の劇場から『現代古典』劇として上演するもの。
劇場は、20席ほど、舞台と客席が限りなく近い。その為、役者の息遣いや微妙な表情の変化を間近で観ることが出来、臨場感がある。
舞台には、舞台美術はなく、左右に一段高い人2人が乗って動けるほどの広さの舞台と左右を繋ぐ短い廊下のようなものがあるだけのシンプルな舞台があるだけ。
そこで紡がれるのは、死後出版された『三文の知恵』が最もよく知られた作品で、この著作はウィリアム・シェイクスピアに対し、「国中で舞台を揺り動かせるのは自分だけだと自惚れている」と批判し、シェイクスピアに対するこの恨みがましい毒舌は、演劇人としてのシェイクスピアに対する最初の言及として後生に残るとされる、17世紀イギリスの流行劇作家 ロバート・グリーンが1590年頃に書いた戯曲『ベイコンとバンゲイ』を原作として、劇団現代古典主義が、13世紀イングランド、オックスフォード大学の秘密の部屋に隔離されている嫌われ者<黒魔術師ベイコン>の前に、貴族・国民の反発を恐れる嫌われ者の<王様ヘンリー>がやって来て、「一夜にして宮殿に、バベルに勝る<真鍮の城壁>を出現させよ」と命令するのに対し、「オックスフォード大学を黒魔術大学にし自身を大学総長に任命せよ」という条件を提示するベイコン、2人を軸に互いの思惑のため手を組んだ嫌われ者同士が魔術を盾に繰り広げる古典ドタバタ魔術喜劇。
まだ、千穐楽を迎えていないので、これからご覧になる方の愉しみを損ねてはいけないので、いつもの様に詳細な感想は書けませんが、終盤まで、所々に笑いを散りばめられてはいるものの、喜劇というよりはグーッと惹き込まれる緊迫感と迫力で、この結末はどうなるのだろうとハラハラするどちらかと言えばシリアスな話の展開が、終盤に近づくにつれ中盤までとはガラリと変わり、徐々に喜劇として盛り上がって行き、面白い推理小説を読んで止められなくなる感じが、最後にカラリと明るく、ほわっと緩和して、最後はお腹の底から屈託なく笑える品やの良いドタバタ喜劇へと昇華して、Xmasに観るのにピッタリの舞台だった。
ベイコンとヘンリー王のやり取りは、緊迫感があり、元々は、人の為に魔術を使う事を考え研究していたベイコン(大西輝卓さん)が、ヘンリー王(樽屋佳典さん)の仕打ちにより心を閉ざし、それが黒魔術へと走らせたが、マーガレット(女神アフロディーテ・倉持杏純さん)によって、愛する心を取り戻したのも束の間、ヘンリー王によって召喚された悪魔ベルセフォン(柏木公宰さん)よって愛する者を奪われた時のベイコンの哀切が胸に沁みた。
ヘンリー王にしても、こうまで嫌われ者になるほど性格を拗らせたのには、それなりの痛みや悲しみがあっての事ではないかと感じた。
ここまでで終わってしまえば、胸塞ぐ悲劇なのだが、終盤に向けて、さっきまでのあの深刻で重厚な悲劇にも見えた世界は何処に行ったのかと思えるほど、次々に伏線が回収され、笑いが高まり、明るく楽しいドタバタ喜劇として終わる、70分と思えないほど、ギュッと濃縮され、観応えがあり、身を乗り出さんばかりに見入ってしまう舞台だった。
アクト青山の次に、自宅から近い劇団現代古典主義のアトリエ。またひとつ、こんなに近くに、良い舞台が観られる劇団があるのは嬉しい。
千穐楽は16日。劇団現代古典主義でしか観られない、同時進響劇で描く『王様と魔術師ベイコン』、小体な劇場で大きな温かさに包まれるクリスマスにピッタリの舞台は如何だろう。
文:麻美 雪
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