演劇集団アクト青山:企画公演『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』Aチーム

 2018.10.3㈬ PM14:00 アクト青アトリエ。

 通い慣れた千歳烏山のアクト青山のアトリエに、いよいよ始まった、演劇集団アクト青山『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』Aチームを観る為に私は居た。

 Cチームの小西優司さんに、演出家インダビューをさせて頂いた時から、これは、全チーム観たいと思っていたところ、ひょんな事から3週間の長期休暇を得るに至り、急遽A、Bチームのチケットを取り、『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』初日の初回、岩崎友香さんが演出、出演されるAチームを観た。

 アクト青山のアトリエに入った瞬間に、女優の楽屋を思わせる設いが垣間見え、そのまま、アトリエの中へと歩を進め、右手最前列の真ん中の席に着く。

 正面には、大きめの座り机がひとつ。その上に、女優Aと女優Bの化粧道具と小さな鏡が置かれている。その机の左手奥には、ハンガーラック、その手前には姿見があり、その横に背もたれのない四角い革張りの椅子。
 座り机の奥に、女優Cの化粧前が設えられている。

 此処は、女優の楽屋。この楽屋を舞台に4人の女優の物語が展開されるのだが、芝居が始まる前から、女優A(中西綾乃さん)と女優B(廣田明代さん)の芝居は既に始まっていた。

 この、二人のやり取りが、女優Aと女優Bの距離感と関係をよく表していて、これがある事により『楽屋』の世界へとするりと入り込んで行けた。

 『楽屋』は、舞台への思いを残しつつも男の為に自ら命を絶った戦後の女優Bと第二次世界大戦による空襲で、舞台への思いを残しつつ命を奪われた女優Aが、霊となり棲みついている楽屋を舞台にしている。

 澱んで溜まった空気の如く部屋の隅で、永遠に来ないはずの「出番」の「準備」をしている2人の女優の棲みつく楽屋で、今の女優Cと女優Cの元プロンプターで、病により入院していたが、「すっかり健康になって退院して来た」と言い張る、女優という仕事に魅入られ心を病んでいる事に気づかない若い女優Dの間に起こる確執と葛藤によって引き起される事故。

 女優という仕事の残酷さ、辛さを甘んじて受け入れる覚悟をし、魅入られ逃れる事の出来ない女優という性と仕事を命尽きるまで続ける腹を括る女優Cと、その事故によって、女優霊になる女優Dと2人の女優霊が、共に、二度と訪れない眠りの為に過ごす永遠の長い夜を、ただ漫然と永遠に来ないはずの「出番」の「準備」をするのではなく、来ないかも知れないが、ひょっとしたら来るかも知れない「出番」の為にチェーホフの『三人姉妹』を演じつつ積極的に「準備」するという、3人の女優霊の微かな希望の光を灯して終わる舞台。

 開演前から始まっていた中西綾乃さんの女優Aとの廣田明代さん女優Bの芝居が、『楽屋』の女優AとBの関係性をよく表していて、そのままするりと『楽屋』の世界へと誘ってくれた。席に着いてすぐ、既に始まっていた女優Aの中西綾乃さんを見た時、“樹木希林さんみたいだ”と思った。ポンと樹木希林の名前と姿が頭に浮かんだ。

 女優Cを演じ、Aチームの演出をした岩崎友香さんの描いた『楽屋』は、晩夏の色彩を思わせる『楽屋』だった。

 岩崎友香さんの女優Cは、30代半ば~40歳手前という感じがして、それが晩夏の色彩を思わせた。

 原作では、女優Cは40歳。自身の経験から言うと、30代半ば~40歳と言うのは、例えば、独身で、恋愛をしたとして、あと何回誰かを愛する事があるのか、子供を望んだとして、物理的身体的に産めるタイムリミットが迫っていたり、女としての先が見え始め揺れる季節である。

 失恋の痛みが身に沁み、その痛みを物ともしない程若くはなく、かと言って女としての生々しさを脱ぎ捨てるには若い、狭間の時であり、若くギラギラした真夏ではなく、若さの尻尾を引き摺った夏の終わり、30代半ば~40歳は女にとって晩夏。

 それを、女優Cを通して私は感じ、その女優Cに、枕と引換にチェーホフの舞台『かもめ』の二ーナ役を返せと迫る女優D(葵ミサさん)は、若さゆえの残酷さを体現しているようにも感じた。

 その若さの残酷さ故に、女優Cの中の歳を重ね、自分の軆と容姿が衰えそれにつれて女優として二ーナをいつまで演じられるのか、いつか、女優としての居場所を追われるのではないかという恐れと孤独、様々なものが押し寄せて、女優Dの頭を灰皿で殴り、彼女を、女優Dの若さを拒否したのではなかったか。

 女優CとDの関係は、女優AとBの関係でもあるのではないか。ただ、女優AとBは、共にこの楽屋で、永遠の夜を過ごすうちに芽生えた連帯感と共生、女優Bは、自分の若さも永遠ではなくいつか女の晩夏を迎える事に気づいているのが女優Dとは違うように思った。

 女優Cに殴られ打ち処が悪く、女優霊になってしまった女優Dは、その事がまだ解らない。だからこそ若さゆえの傲慢と残酷さ、勝手な思い込みをその身から発し、それ故に女優Cや女優A、Bにさえ疎まれ、苛立たせている事に気づかない。

 けれど、女優A、Bと接するうちにその事に気づいた時、女優Dの暗く澱んだような変わり、明るく愛らしい姿に変わり、女優AとBもまた、女優Dと関わるうちに、二度と訪れない眠りを受け入れ、永遠の夜を積極的に生きて行こうと変わって行く。

 重く聞こえるこの舞台、随所に笑いが散りばめられていて、面白さもたっぷり味わえる。それでいながら、自分の人生に重ね合わせて様々な感情や思いが胸に去来し、考えさせられ、最後は、仄かな希望を見出しすことが出来る舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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