演劇集団アクト青山:夏の朗読会《参》『怪談集夜曲』②

 続いて、8/5(日)の夏の朗読会《参》『怪談集夜曲』について。

 この日は、東中野のバニラスタジオで幻想芸術集団 Les Miroirsの朝霞ルイさんと芸術集団れんこんきすたの中川朝子さんのユニットLe Matin『Le Matin‐ル・マタン‐vol.4』の朝11:00とPM14:00の2公演を観た足で、千歳烏山のアクト青山のアトリエへと向かった。

 演劇集団アクト青山夏の朗読会《参》『怪談集夜曲』の千穐楽で最後の回は、一番聴きたかった小西優司さんの『四谷怪談』から始まった。

 この日は、前日とうって変わり、霊感などないにも関わらず、何となく空気が違った。ずっと膚に纏つく蒸し暑さが部屋に漂い、朗読者の座る畳の四隅に盛り塩がしてあるにも関わらず、何となく息苦しいような澱んだ空気を感じた。

 何処からか入り込む風に壁にかけられた着物が風に揺れ、蝋燭の火も風に吹かれて大きく揺らぎ、燃え方が前日よりも早い。

 小西優司さんの朗読が始まってすぐ、今まで歌舞伎や映画、時代劇などで知っていた『四谷怪談』と微妙に話が違っている事に気づく。後で調べてみると、この『四谷怪談』には様々なバリエーションがあると知った。

 勿論、話の大筋自体は変わらないのだが、細かい部分が違う。小泉八雲のお岩は、元々美人というのではない所に、子供の頃の高熱を発する病が元で更にその容貌を損なう事になり、嫁ぐことも諦めていた矢先に縁あって伊右衛門と一緒になり、伊右衛門も当初はお岩を大切にし、仲睦まじかったのが、歌舞伎などでもお馴染みの美しいお梅と知り合い、お梅の美しさに心変わりし、お岩と離縁し別居するが、いつか伊右衛門が自分の元に帰って来るようにと儚い望みをかけ続けた病弱のお岩は、伊右衛門とお梅が一緒になった事を知り、死んで伊右衛門、お梅、お梅の父と関わるもの全てを祟り殺す話しになっている。

 よく知られる『四谷怪談』とは、違うバリエーションながら、より、お岩の絶望と悲しみ、そのやり場のない深い悲しみが、伊右衛門等を呪い、祟り殺すまでに凝ってしまったのだとストンと腑に落ちた。

 朗読が進むにつれ、小西優司さんの声が出にくくなっているように感じる所があり、終盤辺りの頁に差し掛かった時、急に拒むように頁がぺったりとくっつき、頁が捲れなくなった所があった。

 この日撮影が入っていて、丁度カメラが小西さんの後ろにあったのだが、そのカメラマンの手とは違う、白い靄がかった丸い物が、小西さんの肩越しにふわりふわりと浮かび漂い消えるのが、小西さんの朗読を聴きながら見えてしまった。

 なまじ、自分の醜い容貌を気にもとめず、やさしく接し、仲睦まじく過ごした時間があった為、幸せを知り、伊右衛門に尽くし、伊右衛門にひと時であるにせよ大切にして貰い、愛された記憶があった為に、美しいお梅に夫伊右衛門の心が傾いて行くのを見ながら為すすべも無かったお岩の心情、離縁され、別居してもいつか伊右衛門が戻ってくれるのではないかと淡い望みさえ、打ち砕かれたお岩の絶望と身を焼き尽くすような悲しみ、それ故に、死んで伊右衛門たちを取り殺さずにはおけなかった痛みが膚に食い込むように、小西優司さんの朗読を聴きながら感じた。

 やはり、お岩は悲しく切ない。子供の頃から、『四谷怪談』のお岩の遣る瀬無い悲しみと切なさにいつも胸を塞がれた。怖さよりもお岩という一人の女の悲しみと切なさを感じずには居られないのだが、今回は更にその感が深くなった。

 そして、葵ミサさんの『かなしい日本髪』の朗読が聴いていて、とても丁寧に一人一人の人物とそれぞれの心情が浮き上がるように朗読されていたのが、とても心に残った。

 これも悲しくて、切ない話。髪は女の命という概念が強かった時代、とある事で火傷を負い、一命は取り留めたものの美しい顔(かんばせ)と髪を焼かれ失った一人の娘のきれいに結った日本髪への思いが起こした事件。

 自分で自分の心を抑えることが出来ないほどの、髪に対する執着は、女としての、生きる事への執着と顔と髪を失い、女としての命の潰えたこと、この状態では早晩自分の命が果てるであろう事の不安と悲しみそんな全てのものが、綯い(ない)交ぜになった痛みが、犇々(ひしひし)と伝わって来て、胸が痛くてならなかった。

 2日間、小泉八雲の怪談を演劇集団アクト青山夏の朗読会《参》『怪談集夜曲』で聴いて改めて思ったのは、日本の怪談は、ただおどろおどろしいのとは違う、深くて静かな悲しみと切なさと絶望から成り、祟るには祟るだけの理由があり、その被害者は女性が圧倒的に多く、それはまた、女がまだ、一人の人として見られ扱われなかった時代の女の悲しみや遣る瀬無さ、痛みが反映されているのかも知れないと思った。

 怖いけれど、また、来年も聴きたいと思った演劇集団アクト青山夏の朗読会《参》『怪談集夜曲』だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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