Dangerous Box:綾艶華楼奇譚第四夜『晩餐狂想燭祭~死~』②

 4階でエレベーターの扉が開くと、美しく艶やかな着物を纏った花魁たちが、綾艶華楼へと案内してくれる。

 金魚のような艶やかな着物の裾を引き、登楼するお客たちを案内するその中に、どんな美しい花魁たちにも負けない目配り、気配り、心配りの行き届いた対応をしてらした方がいた。

 『晩餐狂想燭祭~死~』の中では、艶っぽくカッコイイポールダンスを見せていた龍さん。会場全体を見回して、一人で手持ち無沙汰でいる人や会場の雰囲気に少し緊張している方にすっと寄って言っては、話しかけたり、嫌味のないちょっかいを出したりして、解してらして、その行き届いたおもてなしと対応は、見ていてとても気持ち良く楽しく、私も龍さんに席に案内して頂いてとても楽しく舞台を愉しむ事が出来ました。

 前回まで、富永裕司さん演じるむっちゃんがしていた楽しい姿が、今年は見られないのかと寂しかったのですが、そのおもてなしの温かさと楽しさが龍さんに引き継がれている様で嬉しかった。

 和んだ中で始まった、一華が一華になる物語。

 その一華を演じ続けて来た篠原志奈さんは、今回、一華の面倒見る姉花魁零華を演じてらした。

 この綾艶華楼奇譚『晩餐狂想燭祭』をシリーズ2作目から観ていて、一華の纏っていた諦観とそれを超越し自ら廓で生き、留まり、命果つるその時まで廓で生きる事を選び取った潔さと強さは、どこから来るものなのか、何が一華を一華たらしめているのが考え続けていた答えがこの物語を観て腑に落ちた。

 この事があって一華が一華になり、零華あってこそ一華が一華となった瞬間の身も心も裂くような痛みと哀しみがあっての事であり、刺されて命果てた切ない零華は一華と重なり合い、零華が一華の中に入り、零華は一華になったのではないだろうか。

 今回、後に一華になるお花となったのは、小野友花里さん。まだ、御目見もしていない花魁にもなっていない小野友花里さんのお花は、無邪気で可憐で春の陽だまりのような少女。

 その少女が、その日友人に連れられ綾艶華楼に来たももの友人とはぐれた真面目で堅物女遊びも花魁をあげての廓遊びも知らなかった八文字(林里容さん)と偶然行き合い、見初められたものの、供をしていた八文字家の用心棒の霧条(REONさん)に恋をし、初めての恋心を受け入れられず我を失くした八文字に霧条が女である事を告げられ、お花の中で何かが壊れ、その瞬間心凍らせお花は一華になった。

 どんなに愛しても、愛されてもむすばれることのない、お花と霧条。その事を知った瞬間、少女の心は砕け散って女の心になり、愛する事も愛される事にも背を向けて、心凍らせて、身を売っても心を売らぬ、否、その身さえも意にそまぬ男には売らない一華という女であり、花魁になった。

 一華の絶望と諦観、それを超越し自ら廓で生き、留まり、命果つるその時まで廓で生きる事を選び取った潔さと強さはまた、零華が味わった事でもあったのではなかったか。

 零華もまた、一華と同じような痛みの経験により零華になり、それ故にお花を気にかけそばに置いて面倒を見たのではなかったか。その零華の愛の痛みの哀しい遺伝子は、一華へと引き継がれそれはまた、花魁たちの哀しみの遺伝子だったのではないだろうか。

 八文字(林里容さん)にしても、お花への思いが受け入れられていたら、後のあの八文字にならることは無く、穏やかで真面目で物静かな御曹司でいたのかも知れず、愛に飢え、一華や人の心を金で買おうとするような、狂おしい哀しみのたうち回るような八文字にはなっていなったのではないだろうか。

→③へ続く。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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