Dangerous Box:綾艶華楼奇譚第四夜『晩餐狂想燭祭~死~』③

 八文字家の用心棒のREONさんの霧条。お花(小野友花里さん)が初めての恋心を抱いた最初で最後の男であり、自分の思いを受け入れられず我を失くした八文字に霧条が実は女である事を告げられたお花の中で何かが壊れ、その瞬間心凍らせたお花が一華になったきっかけになった男。

 どんなに愛しても、愛されてもむすばれることのない、霧条とお花。

 お花に対する想いを最初は抑えていたが、抑えきれないお花への想いが募ってゆくに従い、お花と生きたい、幸せになりたい、もしかしたらその儚い願いは叶うのでは無いかと刹那の夢を見、その夢は八文字によって砕かれ、霧条もまた絶望とお花への愛しさを胸に抱えて命果てて行く。

 『愛してる』。その一言を伝えるにはあまりに遅く、それ故に、霧条がその一言に込めたお花への思いが胸に染みるように切なく痛い。

 霧条とお花を添わせてあげたかった。霧条が男であるとか女であるとか関わりなく、想い合う二人を娶せる事が出来たなら、一華は一華になる事もなく、透明な涙の皮膜に囲われた廓という鉢の中で生きる事もなく、あの最後はなかったかのかも知れない。

 否、綾艶華楼という艶やかで残酷な檻の中で出逢わずに、透明な涙の皮膜の外のありふれた時間の中で出逢っていたなら、お花とただの霧条として共に生きられたのではなかったか。

 所詮千尋さんの女ヤクザの千種もまた、男の衣を纏いつつも、女であらず、男であらず、お女である事も男である事も辞め、辛うじてその身の中に唯一人情のみを留め、その人情のみが人として千種を生に繋ぎ止めていたのではないのか。

 人情だけはまだ、その軆の内に留めているからこそ、霧条が女である事を見抜き、挑発しつつも、自らの身と交錯しある種の心の奥底に沈めた痛みのような諦観と哀しみ共鳴し、それが一瞬の隙となり霧条の太刀にかかったのかも知れない。

 千種の目の中に、自らが女である事を恨み、男を憎み、女である事をやめ男でありたいとも思わない、ほの暗い生への諦観と悲観のようなものを感じた。

 綾艶華楼奇譚第四夜『晩餐狂想燭祭~死~』廓という艶やかで痛くて哀しく、残酷な涙の皮膜に囲われた金魚鉢の中で、唯一人、たったひとつの切ない想いを軆の底に沈め、心凍らせながらもその中で昂然と顔を上げ、心を売らず、男に媚びず、自ら留まり命果つるまで生きる事を自ら選び取った、一華が一華になる最も切なくて美しい物語。

 綾艶華楼奇譚第四夜『晩餐狂想燭祭~死~』観劇ブログ、これにて幕と致します。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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