クリム=カルム:『ロミオとジュリエット=断罪』~④役者変身~

 『ロミオとジュリエット=断罪』の観劇ブログもこれで最後。

 『ロミオとジュリエット』を読み返したり、ふとあれはこうだったのではと思いついたらまた、書くかも知れませんが、内容についてはひとまずこの回で最後です。

 出演されている役者さん全て、素敵だったんですが、その中でも特に印象に残り、好きたと思った役者さんについて書かせて頂きます。

 高嶋友行さん、一見、ロミオがぴったりな容貌なのですが、ロミオの親友で、ジュリエットの親友であり、実はジュリエットと出逢う前にロミオが密かに恋していたロザラインの恋人であり、ロザラインを好きでいながらも女性からもモテだし、女性全般に勘違いをさせそうな素振りをしそうなベンヴォーリオーを演じてらした。

 ロミオの恋の相手がジュリエットだと思い込み、ジュリエットと結びつけようとロザラインを巻き込み、ふたりが出会うパーティへと連れ出し、ふたりが恋に落ちるきっかけを作る重要な役でもある。あそこまで、ロミオをジュリエットと結びつけようとしたのは、もしかしたらこの時から既に本人さえ無意識のうちに、ロザラインをロミオから遠ざけようという気持ちが働いたのではないかと思った。

 19歳とは思えない、色気のある役者さん。少年と青年の狭間の今だからこそ醸し出せる色気をケレン味なく纏っている役者さんだと思った。終演後少しお話したら、とても謙虚でシャイな方でした。この方のお芝居、わたしはとても好きです。

 能澤ゆかりさんのジュリエットは、今までちょっと見たことの無いジュリエット。最初に登場する場面、兄ティボルト(安藤裕一さん)とベンヴォーリオーの喧嘩をエスカラス(池田弘明さん)が諌めている時、兄を庇ってエスカラスに「あんたは誰よ。止めなさいよ、私は前にいる止めたわよ。」と啖呵を切るロックなジュリエット。

 そのジュリエットが、ロミオと出会ってからは何とも可憐で健気なジュリエットになる。可憐でありながら、ロミオとの恋により芯の強さを増し、少女から凛とした女性へと移ろう刹那ロミオを追って命を絶つの切ないジュリエットを可憐に演じてらした。ジュリエットにぴったりの方。

 森本あおさんのロザラインは、今まで名前だけで舞台に登場することがなかった役。『ロミオとジュリエット=断罪』では、このロザラインが、ふたりを悲しい結末へと導いてしまう役であり、この話を展開させて行く狂言回しの重要な役。

 想い想われた者同士だったはずのベンヴォーリオーから、突如、ロミオへと狂おしい恋ごころを募らせ、それ故にロミオとジュリエットの仲を裂こうと画策し、結果として、ふたりの揺るぎない愛の前に、打ち砕かれ、執着する程焦がれたロミオと親友だったジュリエットを死へと追いやり、喪うことになる。

 はっきりと描かれている訳では無いが、ロザラインに向けるような甘い眼差しを、ベンヴォーリオーが他の人に向けたか、ロザラインにするように誰にでも優しくするベンヴォーリオーの想いがどれ程のものなのか不安になり、ジュリエットを一途に愛するロミオに惹かれたのではないだろうか。ベンヴォーリオーがロザラインだけを愛していると信じられたなら、この悲劇は起きなかったのではなかったか。

 結果として、ベンヴォーリオーは、ロミオに心を移したロザラインを取り戻したくて、ロミオがロザラインを奪って行くのではないかと諍ううちに誤って親友ロミオを刺して殺してしまう。もしかしたら、その時、初めてロザラインは、自分がベンヴォーリオーに心から愛されていた事に気づいたのかも知れないし、自らの犯した罪と事の重大さに気づいたのかも知れない。大切な全てを喪った後で。

 長田咲紀さんのヴェロニカは、とにかく格好良い。亡きロレンス神父の跡を継ぎ、ふたりを結婚させ、親友マキューシオがティボルトに刺されたのを目の当たりにし、逆上してティボルトを刺したことにより、ヴェローナから逃げるロミオとジュリエットを逃がして、別の地で一緒に暮らさせようとする。

 ロミオに殺されたティボルトの恋人でもあり、苦悩しながらもジュリエットの直向きさにふたりを逃れさせようとするも、結末は悲しいものへとなる。ヴェロニカの言う一言一言が、事の真理を突き、この物語の中で一番冷静な視点で観た、芯の通った潔さが惚れ惚れする程格好良かった。『ロミオとジュリエット=断罪』の中で、一番好きな人物でもある。

 乃々雅ゆうさんのモンタギュー夫人、御自身は「ヤンママみたい」と仰っていましたが、ロックな母で、幻想芸術集団 Les Miroirsやほかの舞台で観たゆうさんとは、全然違う新しいゆうさんを観たと思った。

 台詞の言い方、声、間、全てがいつものゆうさんとは違っていて、それが、クリム=カルムの『ロミオとジュリエット=断罪』のモンタギュー夫人にぴったり合っていてとても素敵だった。

 最後に小沼枝里子さんのキャピュレット夫人。枝里子さんも今までとは違う、台詞の言い方、声も、間合いで、ゆうさんのモンタギュー夫人がロックだとすると、枝里子さんのキャピュレット夫人は、纏ってらした衣装の印象もあるけれど、何処かスペインの女の強さと激しさを内に持ったキャピュレット夫人で、これは、枝里子さんならではのキャピュレット夫人だと思った。

 枝里子さんの舞台を観るのは、久しぶり。観られなかったその間に、枝里子さんのお芝居が、強さを保ちながらもっと柔らかくしなやかになっていて素敵でした。

 舞台を観にゆく度、素敵な世界と素敵な役者さんに出会うのだけれど、今回ほど素敵だな、また、この方の舞台が観たいと思う役者さんがこんなに出演されている舞台はそうそうないと思った、いい舞台でした。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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