去年、あなたと見上げた桜。
ひとりで見上げる。
繋いだ手は、話さないと誓ったあの日。
幸せな時間は、淡雪のように消え、あの夜が奪い去った。
桜の花の絨毯が、夜道を埋めたあの夜に、花見ぬ花見でしたたか酔った、男の巻き添えで桜と共に散らされたあなたの命。
握りしめた掌に、残されたプラチナの指輪嵌めた左手を、薄蒼い空に翳す。
見上げた睫毛の先に、舞い落ちる桜の花びら。
空の上から見えますか?
去年あなたと見上げた桜が、私の顔が。
目の中で、淡く滲む薄紅色の花びらが、震えて落ちて、桜の色の涙に変わる。
去年あなたと見上げた桜。
ひとりで見上げる今年の桜。
あなたの命を繋ぐ小さな人を腕に包んで見上げる、一年(ひととせ)の後に巡る春に。
photo/文:麻美 雪
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