幻想芸術集団 Les Miroirs:サロン公演『METAMORPHOSES~メタモルフォセス~』⑤

 神を畏れぬ傲慢さで、神の怒りを買い真っ黒な雲に化身させられたアラクネのような人間がいる一方で、神に畏敬の念を持ち、愛と美の神ウェヌスを崇め、その姿を象った石像を作り、自らの作ったその石像に恋心を抱き、血の通った人間になる事を願ったピュグマリオン(朝霞ルイさん)のような人間もいる。

 石像にガラテアと名付けたピュグマリオンが、ガラテアに囁く愛の言葉と愛しむように触れるその仕草の美しさに胸が高鳴る。アポロンの朗々として堂々と響く声とは対照的にやさしく何処か少年の恥じらいと繊細さを残したような声で語られるガラテアへの言葉に甘やかな誠実さを感じた。

 その誠実さにさしものウェヌスもピュグマリオンの願いを叶え、ガラテアを人間に変える。

 そのピュグマリオンとガラテアの孫であるミュラは、実の父に想いを寄せるという父を憎むことにも勝る罪を犯したミュラは、ミュラを見かねた老乳母の手引きによって、実の父との子を宿す罪を犯し、実の娘ミュラと過ちを犯したことを深く悲しみ後悔した父に手にかけられそうだと気づいたミュラは、逃れようとするも身重の軆で逃げ切れるものでは無いと気づき、全能の神に捧げた祈りにより、没薬を滴らせるミュラの木となる。

 ミュラの木に化身する寸前に産み落とした息子は、美しいアドニスという少年に生い育つ。

 絶世の美少年となったアドニスに心を奪われたのは、愛と美の神ウェヌス。アドニスは、己の美しさに無自覚ながら、ウェヌスを翻弄し、何かと世話を焼き過ぎるウェヌスが煙たくなり始めた事に気づいたウェヌスは、生意気な美少年の頭をひやそうと、アドニスを冥界の女王・プロセルピナの元に送るが、アドニスの虜になったプロセルピナとアドニスと取り合うことになる。

 やがて、1年の半年ずつをウェヌスとプロセルピナの元で過ごす事で決着を見るが、狩りをしていたある日、ウェヌスの愛人であるアニス身を変えていた猪を射ってしまい、アドニスに嫉妬していた猪の姿になったアニスに突き殺される。

 アドニスの死を嘆き悲しんだウェヌスは、アドニスを美しい花に変え、神々の酒・ネクタルをその血にかけると、アドニスは真っ赤なアネモネの花に化身するそれまでを、乃々雅ゆうさんの朗読が、此処が自由が丘の小体なBARを古代ギリシア・ローマの神々の世界へと塗り替えて行く。

 美しい少年アドニスが、アニスが身を変えた猪に追い立てられ、逃げ惑い、その牙に貫かれ、血のような真っ赤なアネモネの花に化身し、ウェヌスに守られるように、風からやさしく護られながら咲いているのが見えた。
 最後は、太陽神アポロン(朝霞ルイさん)とクリュメネ(武川美聡さん)の息子はパエトーンの話。

 己が母がエジプト中の崇拝を集める女神となったことを、イオの息子エパポス(絹彦さん)が自慢するのが気に入らず、己もまた、アポロンの息子であると言い返したその事を、嘘だと言われたのみならず、母クリュメネを侮辱された事が悔しく、父アポロンに息子である事を認める言葉と証をもらうと言って、太陽神アポロンの元へと向かう。

 どうしても請い募るエパポスに負け、アポロンは自分の息子である証として、言葉のみならず、自分の毎日の勤めでもある、空を駆って光を運ぶ天馬のクアドリガを引かせるが、パエトーンが気を緩め、手綱を緩めるに至り、クアドリガの吐き出す炎で山を焼き、地上を焼き尽くさんばかりにした為に、パエトーンは、ユピテルにより撃ち落とされ、命絶える。

 大切な息子パエトーンを亡くしたアポロンとクリュメネは、後世までもパエトーンが愚かな息子と誹られるのを聞かなくて済むように、土深く埋め、土に還す。

 父アポロンが諄々と諭し、言い聞かせてもか聞かず、山が焼け、地上を炎が舐め尽くそうとするのを目にして、初めて己の愚かさを悟り、後悔するパエトーン、撃ち落とされ、息子を亡くし、なぜ最後まで諌めず、我儘を聞いてしまったのか後悔し、アポロンの胸張り裂けんばかりの嘆きと悲しみ、息子を亡くし、パエトーンが後世までも謗りを受けることに心を痛め、息子パエトーンの死を悼む、母クリュメネの心の奥底を深く穿つような悲しみが胸に痛い。

 此処に描かれたのは、神も人間も愛や生死、親子にの事に至っては、その別もなく、皆同じであるということ。

 そう解ると、神話や伝説が遠いことではなく、とても身近に感じると共に、気の遠くなるような昔から、人間の本質も言うものは変わらないものだとも思う。

 1ヶ月でこれだけの物を書き、上演するのは凄いこと。

 古代の神話と伝説の世界に遊び、揺蕩った2時間だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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