Le Matin:『Le Matin‐ル・マタン‐vol.3』④

 中川朝子さんのダンスソロの後、第2部の質問コーナーになり、いくつかあった質問の中で印象に残っているのは、『1番苦手なものは?』というような質問があり、ルイさんは、『血』見るのも触れるのも血の気が引くほどダメなのだそう。

 朝子さんは、『突起』。牛タンの付け根の突起とか、海岸のテトラポットや岩場にびっしり付いているフジツボみたいなのがダメなのだそう。

 朝子さんの突起が背筋がゾクリとする程嫌いというのは、解る気がします。勿論、血が苦手というルイさんの気持ちも。

 私の苦手、怖い物は、蜘蛛と細かい粒が密集しているもの。蕁麻疹とか、数の子とか、岩場にびっしり張り付いているフジツボとか、兎に角、細かい粒粒が密集しているのを見ると、文字通り鳥肌が立つ、それと似た感じなのじゃないかと。

 場がふわっと和んだところで、最後の短編芝居『Aurora~浅い春の風に~』へと移る。
 『Aurora』も、Le Matinを観ている人にはお馴染みの短編。

 『Le Matin‐ル・マタン‐vol.1』で、ひとりの女性の葬儀に参列して、ふたりの男が知り合い、『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』の『Aurora~1year after』では、その1年後、ふと立ち寄ったカフェで、偶然その男ふたりが再開し、亡くなった女性の事を語り合い、別れて行く。(『Aurora~1year after』の詳しい内容は下のブログをお読み頂ければ。)

『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』『Aurora~1year after』のブログはコチラから。

 時はまた経ち、季節は巡り、春浅い季節。
 ひとりの男は、女が好きだったチョコレートを持ち、もうひとりの男は、「あの女(ひと)が好きなものを知らなくて」とやさしい色合いの花束を持って、女の墓前で再会する。

 『Aurora~1year after』は、同じ1人の女の事を話しているのに、中川朝子さんの男に対しては、自由奔放、捉えどころがなく、我儘で気の強い女、朝霞ルイさんの男に対しては、浅い春のような柔らかで、物静かで、どこか寂し気な、優しい女性として記憶に残っている、その相反する像を結ぶ女を巡っての記憶の擦り合わせのような会話から、互いの中にある女の姿、女に対する思いが更に複雑に鮮明に、深く焼き付いてゆくような余韻を残して終わった。

 今回もまた、互いの知らない女の一面を語り合う内に、互いの記憶と胸の内にある女の印象と想いはが微妙に変わり、更に消えない程焼き付いてゆくように感じた。

 ふと、思った。ふたりの男は鏡であり、正反対の印象を抱かせた女もまた、鏡だったのではなかったのかと。

 昼と夜、夜と月、強さと弱さ、愛と憎しみ。

 求めても恐らくは、全て自分のものにはならず、いつか、自分を捨て去り去って行くであろう中川朝子さんの男を繋ぎ止めるために見せた、火のような、強い印象を記憶に留めるが如く振舞った女の姿は、中川朝子さんの男にとっては鏡の表であり、ルイさんの男に見せた姿は鏡の中(裏)であり、もしかしたら、それが本当の女の姿であり、ルイさんの男に見せた女の姿は、ルイさんの男にとっての鏡の表、本当は中川朝子さんの男にも見せたかった顔、こう見て欲しいと願った顔であり、朝子さんの男に見せた姿は鏡の中(裏)であり、ルイさんの男には見せたくなかった顔であり、偽りの姿だったのではないかと思ったのは、私の深読みに過ぎるだろうか。
 朝子さんの男には、チョコレートが好き、何が欲しい、こうして欲しいと求めたのに対して、自分には何が好きとも何が欲しいとも、こうして欲しいとも何も求めなかったことが、淋しく、その事に静かに傷ついているルイさんの男。

 故に、自分の記憶にある女とかけ離れた朝子さんに対する女の記憶に戸惑い、『同じ女(ひと)の話をしているのか』と確かめずにはいられず、それはまた、朝子さんの男も同じ。

 ルイさんの男と語り合う内に、朝子さんの男の女に対する感情や思いが微妙にゆっくり変化して行くのを感じた。

 厄介で面倒な女と思っていたのが、僅かずつにではあるが、ある種の愛情の芽吹きのようなものが感じられる。

 対してルイさんの男にも、もっと、頼って求めて、我儘でさえ僅かにでも言って欲しかった、そんな思い出が欲しかったという思いが芽吹いたようにも見えたと同時に、再会してはひとりの女のことを語らう内に、ある種の連帯、友情という言葉とは違うけれど、それをもほのかに含んだような感情が生まれて来つつあるようにも感じた。
 次に再会した時、ふたりの中の女はどんな像を結び、変わっているのだろうか。そんな事を考えていた。

 別れ際、朝子さんの男はチョコレートを、ルイさんの男は、花束を墓前に備えたのだが、それがたまたま、私が座っていた所で、芝居がおわって歌に移る時、「お供えしてしまって」みたいな事を言われつつ、チョコレートと花束を撤収しつつ、歌は『チョコの奴隷』に変わり、この時、朝子さんとルイさんが片手にモールで飾り付けた籠を持ちながら歌い歩き、チョコレートを持って来たお客さんがそこに入れるという場面があり(私も入れました)、朝子さんが跪き「女王様、愛をください!」と叫ぶ場面あり。

 そこから後は、『君はメロディー』『キューティ・ハニー bunny version 』と歌が続き、最後の『キューティ・ハニー bunny version 』では、『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』の時と同様、うさ耳が客席に配られ、うさ耳つけて、サイリウム振って、大盛り上がりの内に第2部、『Le Matin‐ル・マタン‐vol.3』全てが終わった。
 歌あり、ダンスあり、シリアスあり、コミカルありの芝居と、今回も見応え、聴き応えのある、麗しくも愉しい、至福の時間を過ごした『Le Matin‐ル・マタン‐vol.3』でした。

photo/文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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