幻想芸術集団 Les Miroirs第7回本公演:『アルラウネの滴り‐改訂版‐』⑤

 『アルラウネの滴り‐改訂版‐』④で、人は変わると書いた。

 カスパルもフランツもフローラもブリンケン伯爵夫人クロリスも、そしてアルラウネ達も、変わって行った中で、変わらない或いは変われない存在が3人いる。

 毒に魅入られ、魅せられ、毒に執着し、愛したエーヴェルスと杉山洋介さんのブリンケン伯爵とカール殿下(一人二役)である。

 杉山洋介さんのブリンケン伯爵もカール殿下も艶福家。時代が変わろうが、人々が変わろうが、国の情勢がどう変わろうと関心があるのは、女性の事であり、閨での睦言、秘事である。

 人は自分が見たいものを見たいようにしか見ない。社会状況がどうであろうと、時代が変わろうと自分の興味のある事しか見ず、見たくない現実に目を背ける。

 アルラウネの化身ロゼマリー(中村ナツ子さん)との秘事の最中に命果てたブリンケン伯爵も、夫を亡くしたばかりのブリンケン伯爵フジクロリスやエーヴェルスの助手になったばかりのフローラをスカートカードの相手に呼んだカール殿下も、自分の快楽と欲求にしか見ようとしない。

 カール殿下に至っては、エーヴェルス(高山タツヤさん)の奸計によって、侍医であったフローラの父を申開きも調べもせずに処刑させ、きっとその事すら忘れている。自分の一言、判断がどれ程の力を持つかさえ意識がない。

 カール殿下もブリンケン伯爵も、本人たちの悪気ない行動、幼心のような稚拙な悪気の無さが大事を引き起こしていることにすら気づかない。
 時代に取り残され、変わらない、変われない人たちの代表として描かれているようなきがした。

 そもそも、本人たちに変わろうとする気も無かったのではないかと思う。
 ブリンケン伯爵は、女好きの困った人ではあるけれど、杉山さんが演じると何処か憎めなしょうがない人だなと笑ってしまう愛嬌がある。

 秘事の最中に、恍惚とした表情でニッカリと笑ったままなくなったその顔をクロリス(マリコさん)に何度直されてもニッカリと笑った顔に戻るのが薄い紗を透かして見えたのに、思わず吹き出した。

 そのしょうがない人だなという印象はカール殿下にも通じ、見ながら双子のような二人だなと思った。

 変わわろうとは思わなかったのかも知れないエーヴェルス。それは、彼には毒が全てで、他の物には興味が無いから見ようとし無かったのではないか。

 エーヴェルスがあれ程毒に惹かれたのは、毒は快楽と背中合わせで、時代が変わろうと毒と快楽に惹き付けられ身を滅ぼす人がいて、傍から見れば不幸にでも、本人は甘い恍惚の中にいる。エーヴェルスにとって毒は永遠に悦びを齎すものだから、変われずに土の中へ消えたのかも知れないとふと思いつく。

 そしてそれは、カール殿下もブリンケン伯爵もまたそうだったのではないかと思った。

 人も時代も移ろい、変わってゆく中で、変わらない、変われない若しくは変わろうとしない、エーヴェルスとカール殿下、ブリンケン伯爵はその代表として、『アルラウネの滴り‐改訂版‐』に存在していたのではないかと思った。

文:麻美 雪
→⑥へ続く。

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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