幻想芸術集団 Les Miroirs第7回本公演:『アルラウネの滴り‐改訂版‐』④

 乃々雅ゆうさんのフローラは、一年前は、父を貶めた者への復讐を遂げようとする緋い焔を胸に滾らせ、父を貶めた者への激しい憤りと憎しみと復讐心を持ちながらも、幼馴染みのフランツに見せる純粋さや昔の素直さをまだ持ち続け、フランツを前にして何処か躊躇いを感じ、非情になり切れない、何処か弱さと迷いを持ったフローラが今年は、エーヴェルスの思惑と正体を知った後のフローラが去年より自ら運命を選び取り、揺るぎも迷いもない強さを感じた。

 父の非業の死を目の当たりにして絶望と動揺と苦しみと憤りを感じながらも、カスパルに流されるようにアルラウネの館のお飾りの主になり、ラストでエーヴェルスの正体を知っても尚、何処か弱さと迷いを持っていたようだったフローラが、今年は、流されるようにカスパルの手を取り共犯者になったその時から、既に自らの意志の萌芽が仄見えた。

 それは、舞台冒頭の父の亡骸を掻き抱き憤りと悲しみと憎しみを独語するその表情や声音から強くなったフローラを感じた。

 ラスト前のエーヴェルスがフローラたちの手によって逃げ果せたロゼマリーを連れ戻そうとした時、ロゼマリーを後ろ手に庇い、エーヴェルスに発した言葉に、今初めて自らの意志でアルラウネの主である事を選び取り、運命と宿命、全てのものへの憤りとと悲しみも憎しみに対しての自らの対峙の仕方と逆らうこと、アルラウネたちとフランツを守ると決め、選び、生きてゆく事を決めたフローラの強さを感じた。

 1年の時が経ち、フローラという一人の女性の輪郭が強く濃くなったように思う。
 谷英樹さんのフランツは、純粋さや昔の素直さをまだ持ち続け、フランツを前にして何処か躊躇いを感じ、非情になり切れない、何処か弱さと迷いを持った1年前のフローラ一にとって、一筋の光であり、どんな状況にフローラが置かれていても、全てを受け入れるもどかしく愚直なまでの愛を感じさせたフランツもまた、去年より強くなったフランツを感じた。

 優しく純朴だけれど、何処か弱いフランツが、徐々に強くしっかりしたランツになって行き、エーヴェルスに見つかり、追い詰められる最後場面でのフローラを護るという思いが去年よりも強く濃くなり、去年の朴訥とした少年の香りを残したフランツから、大人の男の香りを纏いつつあるフランツになっていた。

 アルラウネの館の扉が閉まる寸前のそのフローラとフランツの姿に、救われたような気がした。

 人は変わる。どう変わるか、何に変わって行くかは、その人次第。

 それが、生身の人間であれ、舞台の中の人物であれ、どちらも時間と共に成長し、歳を重ねて行けるのだとフローラとフランツを見て思った。

文:麻美 雪

→⑤へと続く。

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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