『色の無い檻』

 苦しいの....。

 傍から見たら、美しい飾り紐に縁どられた綺麗な住処。

 外から見れば、綺麗な世界。

 捕えられ、この美しい檻に閉じ込められた私たち。

 内から見れば、色の無い、寒々とした世界。

 生きている間は、一生此処から出られない。

 美しいべべを纏って、呼ばれた方へ泳いで行って、しゃなり、しなりと科(しな)を作って、パクパクと水面から顔を出し、束の間の不自由な自由を味わうだけ。

 遊女を金魚に例えるけれど、金魚も遊女によく似てる。

 此処から出られるのは、命の尽きた時。

 苦しいの。

 此処から出して。

 捕えられ、美しい檻に閉じ込められた私たちの叫びを知らぬあなたは、屈託なく、今日も私を呼ぶ。

 ねぇ、苦しいの。

 此処から出して。

 薄れて行く意識の中で、この世の初めに見た、紅い花の色が見えた。

 水の微かな揺らぎが、私を水面に押し上げて、あなたの掌から見えた束の間の青空、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、私は茶色の新しい褥を敷いた檻の中でやがて融け、いつか、一滴の水になる。


photo/文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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