Alexandrite Stage Produce:『The Great Gatsby In Tokyo~Starlight~』

 2019.3.13㈬ PM19:00 DDD青山クロスシアター

 昼間は暖かかったものの、夜はまだ肌寒い渋谷をAlexandrite Stage Produce『The Great Gatsby In Tokyo~Starlight~』を観るために、DDD青山クロスシアターへと足を運んだ。

 地下への階段を降りるところから、ギャツビーの世界は始まっていた。風に乗って微かに漂う花の香りは、階段に並べられた花からのもの。

 階段を降りた入口にはギャツビー邸の執事が、観客をギャツビー邸のパーティーに来たゲストとして出迎えてくれる。『The Great Gatsby In Tokyo』の世界は、開場、開演する前から始まっていた。

 受付で、予約をしていたチケットを受け取ると、それがギャツビー邸の主、ジェイ・ギャツビーからのパーティーの招待状なっていてそこに記された席へと着くと、目の前には、ギャツビー邸のパーティールーム。

 バーテンダーのいるバーカウンターやソファー、階段を上がるとギャツビーの衣装がかけられたラックがあり、1階のソファーや部屋のあちこちに豪華な花が飾られていたり家具のひとつひとつまでが豪奢な空間がそこにあり、ステージ上、1段下がったところにオーケストラピットがあり、生演奏がギャツビーの世界に更に花を添える。

 上演の数分前から、ギャツビー邸のパーティが始まっていて、自然にギャツビーの世界に溶け込んで行けた。
 
 フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』を読んだのは、20代の頃、私の世代だとロバート・レッドフォード主演の『華麗なるギャツビー』の印象が強い。

 その時読んで感じたのは、胸が軋む程のギャツビーの孤独だった。謎めいた人物ギャツビー、華やかに見える彼の内に見え隠れする孤独は、過去の恋に端を発するが、夜毎開かれるパーティとギャツビーの生い立ち、彼を捕え続ける若き日の恋、黒い影、最後に訪れる結末に胸が軋んだという記憶が35年前の記憶の底からゆらゆらと浮かび上がって来た。

 毎週末開催される豪華なパーティーに集まる男女。囁きや口さのないギャツビーに関する噂やカクテルが、星明かりの下を行き交う。パーティーの主の名は、ジェイ・ギャツビー。

その全てが謎めいている為、人を殺した事がえるとか、怪しげな黒い噂や由緒ある家の出だとか、様々な憶測と噂が飛ぶジェイ・ギャツビー。

 隣人のニックはある日、そのギャツビーのパーティーに招かれるのだが、やがてニックはギャツビーが5年もの間胸に秘めていたある想いを知る事ととなり、その秘めた想いのために、彼にパーティーに招かれた事を知ると言うのがこの『The Great Gatsby In Tokyo』の物語。

 フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』の原作はそのままに、場所を東京に移して織り成す物語は、艶やかで華やか中に秘めやかに漂うギャツビーの孤独と痛みと切なさは、20代の頃に読んだ、フィッジェラルドの『華麗なるギャツビー』を思い出し、その時感じた、ギャツビーの世界がそのまま目の前に現れて、見入った。

 初恋の相手デイジー(愛花 ちさきさん)と身分違いの自分の結婚を認めて貰うために、知性も教養も頭の良さあったギャツビー(ゴウ イリス ワタナベさん)に唯一足りなかったものは、お金と家柄。お金持ちの娘デイジーとの血痕を認めてもらう為、奔走している間にデイジーは、大富豪の御曹司トム(渡辺 翔さん)と結婚してしまう。

 5年後、デイジーの従兄弟ニック(山口賢人さん)の隣に引越し、夜毎パーティーを開き、ニックを招待したのも女遊びが激しいトムに不満を持つデイジーと5年越しの想いを成就させ、彼女と共に生きるために、デイジーと引き合わせて貰う為だった。

 地位とお金を手にする為に、彼が手を染めた良くない仕事、それが紆余曲折を経て、最後に銃で撃たれて死ぬ原因となったものの、ギャツビーのデイジーに対する想いは、無垢で純粋なものであったと思う。

 翻って、デイジーが自分から離れて行きそうになってデイジーに執着し、彼女を取り戻すべくギャツビーの仕事を暴いたトムの身勝手さと子供っぽさと金持ちの傲慢さ。

 ずっと純真で天真爛漫に見えたデイジーがその事を知った途端ギャツビーに背を向けた時、結局は贅沢三昧でステイタスのある今の暮らし天秤にかけた時、ギャツビーではなくあれ程不満に思っていたトムの暮らしに戻る事を選択した、ある種の女の中にある計算高さを感じると共に、やはり彼女もまた、家柄の良い金持ちの物の見方と発想しか持ちえない女であったのだと気づかされる。

 それは、金で地位を買ったギャツビーと生まれから家柄も良く金持ちの家に生まれたデイジーとの間に横たわる超えることの出来ない境遇と地位の差であり、溝であり、結局は上手くゆかなかったであろうと感じた。

 それ故に、華やかなギャツビーの中に巣食う孤独と切なさに胸が軋む。

 ギャツビーの葬儀に来た者はニックの他に殆どなく、夜毎パーティーに集まっていた人々の薄情さとトムを選び葬儀に来なかったデイジーの強かさに世間を見た。

 そんな中、ニックだけが心からギャツビーの死を悼み、ギャツビーに思いを馳せる。ギャツビーは、全てを手に入れかけて全てを失くしたが、ひとつだけ、ニックという親友を得たのではなかったろうか。

 初対面からニックを『我が友よ』と呼び続けたのも、本能でニックがそういう人間であり、唯一無二の友となる事を感じ取っていたからではなかったのか。
 
 2時間20分という時間を感じさせず、瞬く間に過ぎた素晴らしい舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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