乙戯社:『サイドシートひとつぶんの新宿』

 Twitterをフォローして下さっている乙戯社主宰のいちかわ ともさんから、「ゴールデンウィークに初めての主宰公演をするので、観にいらして頂けませんか」というご案内を頂き、GW前半、4日連続で出掛けた疲れが出たのか、前日まで引いていた風邪の気怠さが微かに残る軆で、新宿三丁目にあるatTHEATER『サイドシートひとつぶんの新宿』初日の5/4㈮14時の初回を観に行って参りました。

 乙戯社は、『多様な愛を全肯定するラブストーリーを提供する「少女漫画演劇」』を紡ぐ、脚本、演出、主宰のいちかわ ともさんが立ち上げた劇団。

 地下への階段を降り、足を踏み入れたのは、客席20人程の小さな劇場。
 スクリーンの前に、屋根とドアを外した車が置かれている。舞台装置はこれだけ。出演者は二人。

 紡がれるのは、『2001年―新宿からベッドタウンに向かう車内。夜の店で働く奈々子(花里チサトさん)と、送迎の仕事をしている高橋誠(志村宗一郎さん)はその狭い車内で出会う。翌年。奈々子は思い切って、高橋の隣、サイドシートに座ってみることにする。』というあらすじの物語。

 片道30kmの送迎車の中で、2001年からドライバー誠(志村宗一郎さん)とキャバ嬢奈々子(花里チサトさん)が、ドライバーとキャバ嬢という関係から少しずつ距離を縮め、恋人同士になり、別れ、やがて奈々子が結婚し店を辞める5年間と、12年の時を経て会い、それぞれの日常に戻って行くまでを全て車の中という状況で描いた音楽劇。

 高橋誠は、志村宗一郎さんと白井隼さんのダブルキャスト。

 全て、車の中で紡がれて行く二人の物語は、一言で言い表すと、『不器用な愛』。

 不器用な男と女の不器用で切なくて、最後はほんのり温かい物語。少しほろ苦くて少し大人の「少女漫画演劇」と言ったらいいだろうか。

 互が互いにとって、忘れられない相手。忘れられない恋だった。

 母に愛されず放置されて育ったらしい、田舎から出てきた18歳の少女(花里チサトさん)が、店のNO.1キャバ嬢になり、若い新人が入り、NO.1の座も近い将来下りるだろうと思った矢先、お客さんから結婚を申し込まれ、愛し合いながら、誠(志村宗一郎さん)のただ一度の誤ちが許せず、別れた後もドライバーとキャバ嬢の関係に戻りながら、結婚して辞めて行くその時間の経過を丹念に描き出す事によって、ボタンを掛け違えた二人の不器用さと不器用なだけに切ないほどの純粋さを感じた。

 初めての主宰公演、初日の初回なので、まだ、濃密さや二人の距離のぎこちなさもあったけれど、回を追う事に濃密さを増し、滑らかになって行くような気がした舞台だった。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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