水曜日の夜、仕事が終わったそな足で、中高と6年間通った吉祥寺の曼荼羅へと、湯川美波さんが企画、構成、演出を手掛け、劇団おぼんろのわかばやし めぐみさんも出演された水∞・・・(ウォーターインフィニティ)『岸田國士を読むin吉祥寺曼荼羅』を観に行って来ました。

 湯川美波さんとは、Dangerous Boxの『晩餐狂想燭祭~ 綾艶華楼奇譚参~』に出演されているのを観て知り合い、わかばやし めぐみさんとは3年前の劇団おぼんろの『ゴベリンドン』を観に行って知り合い、お話を聞いたところ、おぼんろに入る前によく2人で色々なさっていた事があるとのこと。

 ウラダイコクの江原しおりさんとは、去年夏の妙義神社での湯川美波さんの古事記の朗読で知り合いと、何だか色んなご縁が数珠のように繋がった『岸田國士を読むin吉祥寺曼荼羅』。

 岸田國士(きしだくにお)って、名前は聞いたことがあるけれど、岸田國士戯曲賞があり、女優岸田今日子さん、詩人で童話作家の岸田衿子さん姉妹の父であり、怪優と言われた名優岸田森の叔父であるぐらいである事しか知らず、ちゃんと作品を読んだことがなかったので、美波さんの企画でめぐみさんと江原さんも出演されるし、朗読劇から入ってみるのもいいのじゃないかと観に行って来ました。

 そして、もうひとつ愉しみにしていた事。
 それは、この企画が、お野菜大好きな湯川美波さんが、これはと言う東京で低農薬、無農薬の野菜を丁寧に作ってらっしゃる農家一軒一軒を訪ねて、農業体験などもしつつ『ご馳走』の言葉通り、あちらこちらと走り回って買い付けて来た美味しく安全でしかもお手頃な価格のお野菜を使ったお料理を食べながら観劇出来て、しかも開演前後にそのお野菜が買えるという、農業支援プロジェクト第一弾だということ。

 月に1回Oisixで野菜を取り寄せて食べる、野菜好きとしては、そこも見逃せないひとつ。
 食べながらは観られても、買えると言うのはなかなかなく、しかも丹精込めて育てられた野菜が宅配で頼むと美味しくて安全だけど高くて毎週は頼めないというのが多い中、『えっ!こんなに安くていいの?』という価格で買えるのはない。

 農家の方たちにとっては、自分たちの野菜を知ってもらい、観て買う側としては、音信で美味しい野菜をたっぷり手頃な価格で買えた上に、6人の違う個性の織り成す朗読劇が観られるとっても素敵な企画。

 正直に言うと、聴いただけではまだまだ、活字となったものを読まないと解らなかったり、岸田國士の世界をきちんと把握し、理解したとは言えないところも多いので、いつものように深読みしたり、細かな感想は書けないのですが、あの夜観て感じた事をそのまま素直に書きます。

 たぶん、岸田國士の作品を最初に活字で読んだら途中で、『何のこっちゃ、あぁ、解らない!』と途中で投げ出して読むのを止めてしまってそのままという気がしただろう。
 だからこそ、この朗読劇は意味があり、最初に朗読劇でみて良かったと思った。

 文字で読むより、耳で聴き、目で見た方がわかり易い、とっつきやすいからだ。

 初めて観るのにどこか懐かしい。

 その懐かしさの正体は何だろうと考えると、恐らく言葉遣いや言葉のリズム、描かれる世界観のような気がした。

 漱石とか鴎外とか、要するに明治から昭和初期あたりの近代文学、近代小説の香りと手触りがするのだ。

 明治村や江戸東京たてもの園、横浜山手西洋館に移築されているような洋館の書斎や書庫の少し古びで時代が掛かった、懐かしくも少しくしんとした静寂とそこに射す春の午後の麗らかな陽射しと古い蔵書の混ざったような匂いを思い起こさせるようなノスタルジックな懐かしさ。

 岸田國士の言葉には、独特の抑揚とリズムがあり、それが、役者さんたちの声を通して放たれる時、生き生きと言葉と映像が立ち上がって来る。

 文字を読むよりも、声に乗せて言葉を聞く方が、岸田國士の作品はとっつきやすくてわかり易いのではないかと感じた。

 私のように、おぼろげながら名前は聞いたことがあるけれど、読んだことがないというひとが、岸田國士の作品を知るきっかけ、入口として、この朗読劇はぴったりだと思う。

 この朗読劇を観て、これはどういうことなんだろう、活字で読むとどんな印象を持つのだろうと本を読んでみたくなる。そういうきっかけとして、また、岸田國士の入門編としてもとてもいいと思った。

 ひとつだけ、『あ行のコラージュ』で、台詞が重なり合うようにいう所が何箇所かあり、そこが、上手く重なりあい、揃った時の面白さは圧巻なのですが、一箇所だけ、言葉が聞き取れない所があったのが少し気になった。

 けれど、他はもう、『あ行のコラージュ』も『コラージュ麺麭の文六さん』も『何なんだ、これは!』とどんどん岸田國士の世界に惹き込まれて行った。

 『あ行のコラージュ』のわかばやし めぐみさんの婆やから少女の変幻自在の声の変化、小川 ガオさんのススキと神 道明さんのたしか桔梗?(桔梗か女郎花だったかうろ覚えで申し訳ありません)の女性の声が、女性より女性らしくて仄かに色気が漂っていて、心地好く聞き惚れた。

 終演後、『飲み会』と称して、演者さんと一緒に食べたり飲んだりしてゆっくりお話が出来たのもとても良かった。

 終演後、湯川美波さんが駆け回って集めた美味しい野菜を使ったバーニャカウダを食べ、私はお酒が飲めないのでジンジャーエールで、みなみさんとめぐみさん、出演されていたアートひかりの加藤久美子さんと4人で食べて飲みながら、気づけば1時間半ほどもお話して盛り上がりました。

 他の舞台だとここまでゆっくりお話出来ることがないので、楽しくも嬉しく、全ての意味で心もお腹も満たされた『岸田國士を読むin吉祥寺曼荼羅』でした。

 美波さんとめぐみさんとゆっくりお話出来て楽しかったです。

 とてもいい企画なので、またやって欲しい。

文:麻美 雪
 

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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