幻想芸術集団 Les Miroirs:『cafe&bar MIROIR』

 キンと冷えた空気を冬の麗らかな陽射しが温め始めた昼下がり、自由が丘にある小さくて静かなBARMumに幻想芸術集団 Les Miroirsの月1回開くサロン『cafe&bar MIROIR』に行って参りました。

 今年1年、毎月1回開催されていた幻想芸術集団 Les Miroirsのサロン『cafe&bar MIROIR』毎回、行きたいと思いつつ、伺うことが出来ずにいたのですが、今年最後のサロンは芸術集団れんこんきすたの中川朝子さんがスペシャルゲストで、8月の『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』で上演した『Dawn blood』を『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』ではやらなかった『Dawn blood』の前段の話と通しで上演すると聞き、観に行来ました。
 自由が丘の駅を降り、キリスト教会とリペアリングのお店の間の細い道を入ってすぐ、教会の隣の建物の目立たない扉を開けて、急な狭い階段を上がった2階に、そのBARはひっそりとあり、ダウンライトの落ち着いた光の中に、カウンターに置かれたグラスに入った蝋燭の灯りが、影を柔らかく染め、ゆらゆらと揺らめく心地好い空間。

 カウンターの中には、朝霞ルイさんと中川朝子さんと乃々雅ゆうさん。カウンターは、5、6人が座れば一杯になってしまうような、隠れ家のようなBAR。

 『Dawn blood』が始まるまでの間、ルイさんのお手製のガトーショコラと美味しい珈琲と、中川朝子さんが選び丁寧に美味しく淹れて下さったマスカットの紅茶を頂きながら、ずっと流れている私が幻想芸術集団 Les Miroirsを知る前、2年前に上演した『trill‐トリル‐』の映像を観たり、舞台の話を聞いたり、ルイさん、朝子さん、ゆうさんとお話したり和やかで、ゆったりとした時間を過ごす。

 私は15時~18時近くまでいたのですが、同じ時間帯に、木村美佐さんもいらしていて、「きょうも着けてきたんです。」と、以前、美佐さんの舞台を観に行った時に差し入れに作ってお渡ししたネックレスをとても素敵に着けて下さっていて、ほっこりと嬉しく、ゆうさんも、「麻美さんから頂いたの普段も使ってます。麻美さんから頂くアクセサリーは、舞台にも普段にもどちらにも使えるので嬉しい。」とこちらこその嬉しい言葉を頂きました。

 差し上げたものをこんなに素敵に大切に使って頂けるのが、本当に嬉しくありがたいです。

 そんな、和やかな時間を小1時間過ごした後、『trill‐トリル‐』の映像が止まり、フッと空気が変わり、密やかに『Dawn blood』の扉が開く。

 『Dawn blood』の内容や感想は、『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』に詳しく書いているので、そちらをお読み頂ければと思います。

 今回は、『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』で上演した『Dawn Blood ~Mirage in Red ~』の前の話から通しでの物語だったので、ああ、だから、『Dawn Blood ~Mirage in Red ~』の始まりがこうなのかと解る。

 それでも尚、それだからこそ、中川朝子の店主が営むBARで、二人が初めて遭遇するその瞬間に、出会うのはこれが初めてではないのではないかという思いが頭を巡る。

 朝霞ルイさんの男は、恐らくその事に気づいていない、若しくは微かに靄のような既視感のようなものは感じはているようにも感じる。

 対して、中川朝子さんの店主は、ルイさんの男よりはっきりと強く、ルイさんの男の記憶を持っているような気がした。

 その最初の出会いから、1年ほどの時が流れ、『Dawn Blood ~Mirage in Red ~』の二人の再会となる。

 そして、やはり、夏に観た時のかつて、一緒に暮らした事がある女性の事を語った時の中川朝子さんの男の苦しげで何かを必死に押し隠し、平成を装うその表情から、もしかしたら、店主が身を変えたその女性そのもの、若しくはその女性が血を吸われたことでヴァンパイアへと転生した姿で、その女性の記憶を宿しているのではないかとの思いが強くなる。

 ルイさんの男もそれに薄々気づき始めているのではないかとの思いもいっそう強まった。

 BARのカウンターをそのまま使い、目の前で、横で繰り広げられる『Dawn blood』の世界。

 中川朝子さんの強い痛みを隠したような、悲しみにじっと耐えるような眼差しや表情に、どうしても男への『愛』の痛みのようなものを感じてしまう。

 男に『その女はどうした』と聞いた時、店主ははっきりと悟り、思い出したのではないだろうか。男がかつて愛し、愛したゆえに男の前から姿を消し、その愛の喪失の痛みと記憶の残滓を抱えたまま転生し男となったことを。

 そしてまた、対する男も店主と話すうちに、微かに、けれど、最初にあった時よりは強く、少しはっきりと店主がかつて自分の前から突然姿を消した女性であることを感じたのではないか。うっすらと気づいたのではないかと感じた。

 『愛』には形が無い。

 けれど、その逆に、『愛』には様々な形がある。
 
 『Dawn blood』に描かれているのも、ある種の『愛』。

 だけれど、それは、ありきたりのよある『愛』ではなく、今まで見たことのない『愛』のかたちのような気がする。

 それは、二人の視線の交わりや目の色、表情から、何となく膚で感じたものである。
 『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』の時より、さらに濃密に、妖艶に、儚く、切なく、甘く、苦く、悲しく、胸の奥を掴まれた。

 この隠れ家のようなBARで演じることにより、より生々しく、臨場感を持って迫って来る感情があり、その感情に心揺さぶられる。

 しっとりとしたビロードの様な夜を思わせる、朝霞ルイさんと中川朝子さんの声。

 ダウンライトの灯りの下、ゆらゆら揺れる蝋燭の灯りに、二人の男の記憶も揺らめいているような...。

 やはり、この作品は好きだ。

 この作品を観ているうちに、ふっと物語のイメージが浮かび、日毎にそれは色濃く、くっきりと像を結び私に書けと促すので、ここ数日、仕事の合間に書き進めている。

 初めて、短編連作として書きたいと思ったら物語。

 朝霞ルイさんと中川朝子さんのイメージで書いている物語。

 いつか、ルイさんと朝子さんのあの声で、読んで頂けたならいいなと思う物語。

 夜の残り香のような刹那に胸を掴まれ『Dawn blood』の扉が閉まり、ルイさんと朝子さんの歌、朝子さんの踊りの後はまた、和やかなおしゃべりの時間。

 ルイさんお手製のガトーショコラ。添えられたアイスクリームと一緒に頂くと更に美味しい。

 苺が薔薇の花にカッティングされていて、チョコレートで薔薇の華が描かれていて、綺麗なデザートプレート。

『薔薇』という字は書けても、絵は描けない私は、この2つの薔薇にうっとり。

 帰る間際、幻想芸術集団 Les Miroirsの『アルラウネの滴り‐改訂版‐』にオリヴィア役で出演してらした武川美聡さんと入れ違いで、ばったりお会いして、ご挨拶出来たのも嬉しかった。

 今度お会いする時は、もう少しお話し出来るといいな。

 心もお腹も心地好く満たされた、『cafe&bar MIROIR』でした。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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