『アルラウネの滴り‐改訂版‐』は、紫のイメージ。紫の悲しみと愛憎が、去年より更に色濃くなっていたように思う。
1年前に『アルラウネの滴り』は、エーヴェルスにあの日、愛を根刮ぎ引き抜かれたカスパルの涙だったのではないだろかと書いたが、1年を経た『アルラウネの滴り‐改訂版‐』のアウラウネが滴らせたものは、エーヴェルスによってあの日、フローラは大切な父を無実の罪に落され絞首刑にされ、カスパルはエーヴェルスに微かに寄せていた子としての思慕と怯えながら求め、僅かにでも自分に持っていると思っていた父性が偽りだと知り、悲しみと愛を憎しみに変えたエーヴェルスへの紫の愛憎、復讐の毒だったのではないかと思った。
そしてまた、人は変わるものであり、どう変わるか、何に変わって行くかは、その人次第であり、それが、生身の人間であれ、舞台の中の人物であれ、どちらも時間と共に成長し、歳を重ねて行けるのだと思った。
変われなかった、変わらなかった、エーヴェルス、ブリンケン伯爵、カール殿下を置き去りにして、フローラもカスパルもフランツも、クロリスやアルラウネたちもアルラウネの館の中で、時代の中でも、関わる人達の中で、強くしなやかに生き生きと変わって行く。
烈しい毒と妖しさ、鬩(せめ)ぎ合う愛憎、一滴の孤独と紫の悲しみ、緋(あか)い憤りと息を詰めるような頽廃の馨が濃く薫る世界。
幻想的かつ耽美で美しい紫の毒を宿し、その紫の中に緋(あか)と黒の愛憎、蒼い闇の色がちらちらと瞬き、その紫の悲しみと愛憎は、去年より更に色を濃くし、仄見える緋や黒、蒼い闇の色がより強く妖しく煌めいて胸を射抜く刹那く美しいアルラウネの物語だった。
文:麻美 雪
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