Photo小説:『水晶の中の空』

 つるりとまあるい水晶に、空を閉じ込めてみる。

 どこかで見たような形。

 ああ、地球か。

 「地球は青い」と言ったのは、ガガーリンだったか。定かではない記憶を探るが、思い出すのも面倒になり、まあ、いいやと記憶を放り投げる。

 あの日から、私の記憶も時間も感情も止まったままだ。

 生きながら死んでいると、友人たちは心配するが、そんな事もどうてもいい。

 あなたのいない世界など、なんの意味も無い。

 本当は、知っている。

 そう思う事さえも、無駄な事だと。

 人間なんて、幾ら悲しみ続けようとしたって、死にたいと思ったって、お腹は空くし、空けば食べるし、ナンダカンダうだうだ、ウジウジしても、眠りもするし、結局、生きてしまうものだってこと。

 そうそう簡単に、死なない、死ねないってことを.....。

 心配なんてしなくていいよ。

 もし、神様ってものがいるのなら、神様がお迎えに来るまで、きっと、私は生き続けるから。

 あの人の為とか、誰かの為とかじゃなくて、ただ、漫然と生きてしまう、生き切ってしまう気がする。人間なんて所詮そんなもん。

 そういう君に、それでいいから、生きていて欲しいと切に願う僕。

 「生きたモン勝ち。生きてるだけで丸儲けなんだからさ。」

 そういう僕に、

 「どっかのお笑い芸人なこと言って」

 と苦笑いする君。
 
 安心したよ。苦笑が出れば、もうすぐ君の、あの日失った、あの日から止まったままの全てが、また、ゆっくり動き出すから。


『』photo/文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

0コメント

  • 1000 / 1000