Le Matin:『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』④

 『I’m mister donut!』から歌へと移り、そして、最期の短編芝居『Aurora~1year after』。

 何処かの店だろうか、スマートフォンの向こうの恋人らしき女性と口論をし、二度と電話も会うこともしないと言って電話を切り、席に座り煙草を男(中川朝子さん)に、この場所は禁煙だと声をかける男(朝霞ルイさん)。
 一瞬目を合わせた、煙草の男が相手に、一年前にある女性の葬儀で顔を合わせた男ではないかと問いかけ、頷く男と話す内、いつしか話題は亡くなった女性の話になる。

 2人の男の語る女性は、まるで別人のように、男たちの記憶に残る。

 かつて、女性と付き合っていたと言う煙草の男は、すぐに怒ったり、わがままを言って自分を振り回した女と言い、もう一人の男は、透明で、純粋で、やさしい、たおやかな女性だったと言う。

 煙草の男にとっては、面倒臭い関わりたくない女、もう一人男にとっては、今でも、何を見るにつけ、あの人だったらどう感じるだろうか、どう思うだろうか、これを見たらどんな顔をするだろうかと静かに切なく思い続ける、愛おしい女性。

 ひとつ、共通していることと言えば、女性が良くも悪くも、2人の男の心に残り続ける存在であること。

 太陽と月のように、朝と夜のように、女性の印象が違うのはなぜだろう。

 煙草の男に対する女は、ユーミンの『青春のリグレット』の1節のような、『私を許さないで、憎んでも覚えてて』という女、或いは、中森明菜の『したたる情熱』の『憎めばいいわ あなたの心に 私の愛が こびりついて消せないほど』という女と重なる。

 2人の女とも、男の心に『憎しみ』という感情でもいいから、ずっと男の心の片隅に消えないシミのような存在でもいいから、存在し残り続けたいと願っている女だ。

 それはまた、煙草の男のやわやわとやさしい女では男の記憶からも心からも自分の存在が滑り落ち、消えてしまうだろう男の性格を知り尽くしていて、敢えて、面倒臭いちょっと嫌な女を演じ、『憎しみ』や『嫌な女』『厄介だった』女として、男の記憶と心の片隅に残ろうとしたのではなかったのか。

 一方のルイさんの男は、そのままの自分をそっと受け入れてくれる、優しい男、繊細で穏やかで、傷つきやすい脆さも兼ね備えている男だから、やさしく、透明で純粋でたおやかな女性として共にいた事で、そっと静かに男の記憶と心の片隅に残ろうとし、残りたいと願ったのではないか。その姿が、もしかしたら、その女性の真実だったのではとも感じた。

 ひとりの印象の全く違う女性を語る男二人もまた、相対する男。太陽と月、朝と夜、黒と白、柔らかさと硬さ。

 どちらが欠けても成り立たない、男と女もまた然り。

 その、正反対の2人の男の違いが、中川朝子さんと朝霞ルイさんの声の色の違いで感じた。

 中川朝子さんの男の声は、紅がチラチラと燃えて煌めく夜の蒼、銀色の月光が射す夜の闇のような声。

 朝霞ルイさんの男の声は、紫を抱いた静かな夜の蒼、透明な白い月光が射す夜の闇のような声の中に、時折チラチラと繊細な少年の面影が覗く声。

 どちらの声も好きだけれど、幻想芸術集団 Les Miroirsの舞台では、いつも耽美なダンディズムを感じる大人の男の声のルイさんのこの声が聴けるのは、Le Matinだからこそのこの『Aurora~1year after』の朝霞ルイさん声が好き。

 舞台には女性の存在はない。けれど、2人の会話から、その女性が二人の間に寂しげな微笑を湛えて穏やかに佇んでいる姿が視える。

 煙草の男は、女の呪いにかかっていると言う。それは、あながち間違えではないような気がした。

 亡くなって1年経っても、正反対の印象で2人の男の心と記憶に残り続けるという甘くて切なく儚い呪いを女はかけ、男たちは今もまだ、その呪いにかけられたまま。

 いつか、女が見たかったというオーロラを2人の男が見た時、その切なく儚い呪いは解けるのかも知れないし、より強くなるのかも知れない。それは、その時が来てみなければわからないことだけれど、2人はオーロラを見に行かないかも知れないような気がした。
 4本の短編芝居どれも好きなのだけれど、個人的にこの繊細な短編が一番好き。

 この4本の短編芝居の脚本も全て、芸術集団れんこんきすたの奥村千里さんが書かれたのだが、『かつて、女神だった私へ』などの重厚な芝居と同じ人が、コミカルあり、幻想芸術集団 Les Miroirsの馨りを纏ったような、繊細な毒を仄かに孕んだ芝居まで、書いていることに凄さを感じる。

 芸術集団れんこんきすたでは、女性と女性の生き方、生きる佇まいを深く掘り下げて書いてらっしゃる印象の奥村さんの、男の人の心の底を短い芝居に凝縮して描いた筆力に脱帽。

 今まで観た芸術集団れんこんきすたの舞台と『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』の全作品、私は奥村千里さんの書く芝居が好きです。

 何とも表現し難い、切なくて繊細な『Aurora~1year after』の後は、歌でパアーッと明るく終焉へと向かう。

 最後は、最前列のお客様にうさ耳が配られ、うさ耳を付けてのラッツ&スターの『め組のひと』を『目っ!』の振り付きで、出演者、客席が一体になって、大盛り上がりの中、『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』終演。

 また、是非ともやって欲しい!そうしたら、次もまた、昼夜どっちも観てしまうかも知れない。

 芸術集団れんこんきすたと幻想芸術集団 Les Miroirsの最高に格好良い、二大男役ふたりの笑いあり、シリアスあり、歌あり、踊りありの贅沢で麗しい夏の夜の夢に浸った『Le Matin‐ル・マタン‐vol.2』でした。

文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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