『夏の夜の悪い夢』

 鈍色の雲。

 鬱蒼と揺れる漆黒の梢。

 風にざわめく、空。

 囁き交わす草木。

 大樹の蔭で震える花たち。
 風がざわめき、樹々を揺らし撓(しな)らせる。

 モノクロの風が囁く。

 耳元に注がれる、残酷な毒。

 あなたを疑うくらいなら、耳を閉ざし、目を閉ざし、唇を閉ざす。

 それでもまだ、何の証もない、無責任で悪意に満ちた風聞(ふうぶん)を、風が、樹々が囁き、ざわめくと言うのなら。

 私の心を黒い傷みで苛んで、私を壊し、侵蝕しようと言うのなら、この命も閉ざして、土に融かしてしまおうか。

 風がざわめく。

 寝苦しい夏の夜の悪い夢。


photo/文:麻美 雪

 

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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