飯田ナオリ1人朗読劇PLUS:『風曜日シアター11』

2020.2.22㈯PM19:00 渋谷ギャラリールデコ6

  飛ばされそうなほど強い、春一番かと思う風が吹き荒れた土曜日の夜、渋谷のギャラリー Le Deco 6階に、飯田ナオリ1人朗読劇PLUS『風曜日シアター11』を観に足を運んだ。

 今回は、休憩なしの2時間半『とこしなえ郵便局 カゲフミ森の黒羊』が、早春の夜にそっと紡がれた。

 現世では、人と違うというだけで白い羊の群れの中の黒い羊のように、蔑まれ、疎まれ、謗られ、石もて追われ、排除され、無視され、傷つき、絶望して生きて来たソムニオ(日比 博朋さん)とシルヴァ(飯田南織さん)。

 絶望の中、出会った二人が森の中で、ひっそり互いの心を温め合うように束の間の幸せな時間を、それまで、誰一人シルヴァに手を差し伸べなかった世間=大人たちが二人の真実を知らずに、自分たちが目にした都合の良い事実を信じ、シルヴァを助けるという名のもとに二人を引き離そうとし、それを拒みナイフで大人たちを刺したシルヴァ、そのシルヴァをこの世の絶望から守る為シルヴァを手にかけ、自分たちの家に火を放ち、シルヴァと共に死ぬ事を選んだソムニオ。

 自死は天国に行けないと知ったソムニオは、シルヴァを手にかけたと嘘の物語を書き、シルヴァは、ソムニオを天国に行かせるために、己の手を重ね、自らの力を込めて自死したという物語を書く。

 心に深く穿たれるのは、お互いがお互いを思い合い、守ろうとする為に吐いた嘘。自分が地獄に落ちても、相手を天国へ行かせようとする思い、無償の愛。

 事実の前に、真実は隠れ、人は真実ではなく、事実のみを信じ、それを真実だと思い、解ったような顔で、知った風な事を縷々述べる。

 ソムニオとシルヴァの真実は、二人にしか解らない。けれど、二人がお互いの真実を知っていれば、解っていれば、世間がどうあろうとどうも思おうと関係ないのだろう。

 一番知っていて欲しい、解っていて欲しい人に真実を知り、解っていてくれれば。

 白い羊の群れの黒い羊のソムニオとシルヴァは、黒い羽根の鴉となり二人して、地獄に落ちても、それは、二人が経験したこの世の地獄と比べたら、二人で落ちる地獄すら天国だったのではないか。

 地獄に落ちれば、二度と話を出来なくなるとしても、二人で居られるのなら、二人で落ちる地獄なら、きっと二人は恐れも悲しみもなく、幸せなのではないだろうか。

 地獄の中の微かな希望の光となり得るのは、二人がお互いの真実を綴った最後の本当の物語。

 それさえあれば、その物語に込めた互いの真実、互いの思いがきっと、二人を照らし、護り、温めて希望を胸に灯し続けることが出来る。

 胸が軋む程に苦しくて、痛くて、切なくて、温かくて、慈愛に満ち、儚くて美しい物語の世界が、確かにあの夜、私の目の前に広がっていた。

 目が腫れて、頭が痛くなるほど泣いて、心と全身を使い果たし、心地好い疲労感と共に私の心の森にもやさしく瞬く小さな希望の光が瞬いた。
麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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