Photo小説:『桜めぐり』

 去年、あなたと見上げた桜。

 ひとりで見上げる。

 繋いだ手は、話さないと誓ったあの日。

 幸せな時間は、淡雪のように消え、あの夜が奪い去った。

 桜の花の絨毯が、夜道を埋めたあの夜に、花見ぬ花見でしたたか酔った、男の巻き添えで桜と共に散らされたあなたの命。

 握りしめた掌に、残されたプラチナの指輪嵌めた左手を、薄蒼い空に翳す。

 見上げた睫毛の先に、舞い落ちる桜の花びら。

 空の上から見えますか?

 去年あなたと見上げた桜が、私の顔が。

 目の中で、淡く滲む薄紅色の花びらが、震えて落ちて、桜の色の涙に変わる。

 去年あなたと見上げた桜。

 ひとりで見上げる今年の桜。

 あなたの命を繋ぐ小さな人を腕に包んで見上げる、一年(ひととせ)の後に巡る春に。


photo/文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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