信号の碧い灯が滲む。
シンと凍った空気が、宙で止まる。
鼻の奥がツンときな臭くなる。
ダメだと思うのに、目の奥の水面が揺れる。
「来年も再来年も、その先もずっと、一緒にこの月を見ようね。」
そう言ったあなたの温かな横顔が、蒼白く変わり、漆黒の夜の道路に、紅い花が顔の周りを縁って、悲しいほどに美しく優しい顔で横たわっていたあの日の傷みを思い出す。
澄んだ穏やかな瞳が開くことも、私を見つめることも二度とない。
碧い灯を、見守るように浮かぶ柔らかな金色の月。
あれは、あなたなの?
「悲しまないで。僕はいつも君を見守ってるよ。」
そうあなたは言おうとしているの?
「忘れないよ。あなたのこと。」
声に出さず、あなたを見上げる。
「忘れてもいい。君が幸せになるのなら。」
「忘れたくないよ。あなたは私の一部だから。家族のようなものだから。」
「優しいくせに相変わらず、そういう所は強情だね。」
クスッと笑ったように、月が瞬く。
「わかったよ。その時が来たら、僕は君の父のように君を見守るさ。」
「同い年のお父さん?何だかちょっと可笑しいけど、その時は娘のような気持ちで、あなたの温かさに包まれて、幸せになります。」
少しだけおどけて言った。あなたが心配でその顔を銀色に変えないように。
銀色の淋しい月にならないように。
「恐がらず、幸せになれ。」
「今でも幸せだよ。あなたが空から見ていてくれるから。」
碧い信号の灯が滲む。
瞳の中で月が揺れる。
でも、泣きはしない。
やさしい月が空にいるから。
あなたが、心配しないように。
強情な私は、滲む笑顔をあなたに向ける。
夜明け共に、朝に溶けるあなたにまた、笑顔で会う日の為に......。
photo/文:麻美 雪
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