夢に咲いた黒い花。
噎せ返るような、麝香に何処かで嗅いだ煙草のが混ざり合い、懐かしいあなたのシャツの匂いに変わる。
夢に咲いた黒い花は、紫の雫を透明な水面(みなも)に落す。
凪いだ海に触れた瞬間、雫は滴る血のような真紅に変わり、海を染める。
夢に咲いた黒い花は、私。
眩暈がする灼熱の太陽が照りつけたあの夏の日、あなたが目の前に投げ出した言葉の礫が私を壊し、私から色彩(いろ)を奪った。
影が私の主体になって、虚ろな體を意識もなく動かして辛うじて生きていた私。
真っ紅に染まった景色に抱きしめられて、私の體も紅く染まって、色彩(いろ)を持つ。
真紅の痛みに焼かれた體が、産まれたての嬰児(みどりご)の其れへと変わり、私はまた生まれ直す。
夢に咲く黒い花は、私。
瞳から零れ落ちた血の涙で、生まれ直す前の色彩(いろ)のない私。
photo/文:麻美 雪
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