『微睡み』

 手を伸ばしても遠い。

 もどかしい距離にあなたはいる。

 触れたら消えそうで、遠ざかると近づいて、近づくとこの手をすり抜けてゆく。

 色の無い空に浮かぶ、輪郭のない太陽みたいに、ゆらゆらと揺らめく幻のよう。

 蜃気楼のような、あなたの面影を霞む瞳の奥に見る。

 ゆつゆつと固まらない、生温いゼリーのような波に抱きしめられて、攫われてゆくような不確かな記憶に沈んで行く。

 私は、現在(いま)にいるの?

 あなたと過ごした、遠い過去(きのう)にいるの?

 抱きしめないで、もう。

 私に構わないで.....。

 今は、独りで眠りたい。

 愛の切なさを知らない国で、あなたを忘れて、眠りたい。


photo/文:麻美 雪

麻美 雪♥言ノ葉の庭

昼は派遣社員として仕事をしながら、麻美 雪としてフリーのライター、作家をしています。麻美 雪の詩、photo short story、本や音楽、舞台など好きなものについて、言葉や作品を綴っております。

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